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処女苦悶!餓狼の牙が豊満な肌を咬む
裂 け た 人 魚


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性の秘密につけ込まれた娘!逃げ場のない
魔窟に拉致され恐ろしい責めにすすり泣く…






恥ずかしい秘密


ひしめき合う車の警笛、広告塔から流れる音楽、駅を出入りする人の波──池袋の駅前広場は、あらゆる音と色彩のるつぼだ。

そんななかを弓子は、ためらう様子もなく白地の清楚な和服の裾をさばきながら突っきっていった。繁華街がしばらく続き、銀行やデパートやビルなどがならんでいるが、そこを過ぎると、次第に商店ばかりになり、ちょっと横に入ると『バー』、『キャバレー』、『一杯飲み屋』…そんな秘密めかしい店が、よくこんなに並んでやっていけると思うほど続いている。

やがて彼女は立ち止まった。あるビルの前だった。ビルといっても、おそらくエレベーターもないようなわびしいビルで、表にごてごて飾り立てた絵看板が出ている。どうやら地下が小さい劇場になっていて、その看板らしい。






全裸の女が荒縄で体を無残にくくられて、褌姿の男から折檻をうけているといった猥雑な毒々しい絵看板が二つほど並んでいる。ストリップとSMショーとの二本立てなのであろう。一時アングラ劇場というのが方々にできたが、結局はやっていけなくなって、こんなふうになってしまったところが相当多い。そうした一軒にちがいなかった。

弓子はその絵看板の前に立ち止まって、その絵柄をじっとみつめると、ハンカチで顔の半分
くらいを隠しながら、つと切符売場に近づいて、『一枚……』と消え入りそうな声でいった。


入場料三千円。釣残を受けとる白魚の指にダイヤの指輪が輝いているので、チケット売りの
女はビックリして穴から客の顔を覗いて見た。弓子の手がかすかにふるえている。


そして、罪をおかす者のようにあたりを見まわしてから、素早く階段をおりていった。

親はもちろん、友達にもいえない外出──いつの頃からかやみつきになった。彼女の娘らしくない病癖だった。誰にでも秘密はあるとしても、これはまたなんと変わった彼女の秘密だったろう。

はじめは電車のなかできいた中年男の噂から異常にそそられて、一回だけ──そう思ってきてみた小屋だった。一回きりであとはやめよう……そう思ったがダメだった。

それからは、電車が池袋に止まるたびに、眼はくらくらし、胸の鼓動は妖しく高なって、い
まにもやぶけそうになる。


そのときたった一度見た女優の演技が、頭のなかに焼きつけられたようになり、夜、寝床に入っても、その刺戟に我慢できず、そのシーンを頭に描きながら、つい手を下にのばしてしまう。そうしなければ眠れなかった。

一度決心が破れてしまうと、あとはやけみたいになり、毎週土曜日になると、お花のお稽古の帰り、彼女は吸い寄せられるように、この汚い小屋にひとりできてしまうのだった。

土曜日なので、狭い小屋のなかは混んでいた。彼女には、そのほうが気がラクだった。

一杯ひっかけた労務者や若い学生、くたびれきったさえない会社員たち─それから若い女たちはこの辺の飲み屋やバーの女たちであろう。みんなひいきのタレントに声をかけたり、冷やかしたり、そしてきわどい場面へくると、

『よお、もうすこし出しなよ!』

『ケチケチしねェで、もっと脱げ!』 などと奇声をあげたりしていた。

人いきれと、トイレの臭気……それと地下室のカビ臭い匂い……馴れないものにはとうてい耐えられないそれらの匂いの充満のなかで、見物客たちは平気でコーラを飲んだり、せんべいをかじったりしている。

弓子はハンカチで口のあたりをマスクのようにかくしながら、目立たないように一番うしろの隅に立って見ていた。ちょうどそのあたりが一番暗いので、ときどきこの場ちがいな若い娘の観客を振り返る者もいたが、すぐ舞台のほうへ気をとられて忘れてしまう。

舞台では呼びものの責め場がはじまっていた。長襦袢を着た女優(すこしやせているが意外と美しかった)が庭先のようなところに放り出されて、さるぐつわをはめられ、後ろ手にきつく、くぐられたまま、

『さあ、白状しねえか。白状すればよし、しなけりや、こうして……』 と土足で背中をぐいとつかれて、

『あれえ、助けてェ』 と可燐な声をあげながら、前のめりに転がされ、責められていた。

ならず者に扮した男優の、かかげられた浴衣の据からみえるたくましい毛ずね……そして奥にのぞく、あるふくらみをもったさらしの六尺褌の白さ。細ひもがきっかりと喰い込んだ女優の胸の肉や、がっくり根のくずれた島田のびんのほつれ、それらのものが弓子に不恩義な戦慄をあたえる。

弓子はなぜだかわからなかったが、男に縛られた女の姿態や、虐げられている様子を見ていると、芝居だとは思いながら、まるで自分がそうされているように、体がしびれ足がふるえてきて、のどがカラカラに渇いてしまうのだ。

『ああ……』

弓子は、女優が突き転ばされて、顔をぎゅうぎゅう踏まれる場面にくると、ハンカチをギリギリ噛みながら、咽喉の奥からしぼり出すような呻き声を無意識にあげた。




お上品ぶるな!



弓子が立っているのは入口より奥のほうの隅だったが、そのあたりは一番暗いので、彼女は誰にも気を使わないで舞台に見とれていた。しかし、舞台もなかば進んだ頃、反対側の隅のほうにいた一人の若い男の視線が、さっきから弓子のほうをじっとみつめているのに気がつくと、それからはその男が気になってどうにも落ちつかなかった。

今はやりの派手な絞りの染めシャツを着たその男は、蛇を思わせる三白眼で、喰い入るように弓子の肢体をみつめている。射すくめられるように感じた弓子は急に恐ろしくなって、出ようとすると、その気配を察したのだろう、その男はすっと弓子のそばに寄ってくるなり

『好きなんだね、え? ねえちゃんはこんなのが好きなんだろ……』

と、馴れ馴れしく話しかけてきた。弓子は無視してやろうと思ったが、黙っていれば、その問いを、承認したことになると気がついて、

『いえ、好きじやありません』 と切り口上で答えた。

『へへ……好きじやないものが、なぜこんなところにくるんだい』

男は、無遠慮に顔を寄せ、煙草で黄色く染まった歯を見せて、低く笑った。それが、ゾッ〜とする程冷たく、いやらしかった。

『どいてください。わたしもう帰るんですから!』 弓子が体を動かそうとすると、

『なあ、もうすこしいいじゃねえか。オレといっしょに見ようや、な、ねえちゃんよ』



と男は体をすりつけんばかりにして弓子の前に立ちふさがった。

『もう帰らなくちゃいけないんです失礼します』

蒼くなった弓子がすりぬけようとすると、男は彼女の腕を、和服の上からぐっとつかんだ。意外に強い力だった。

『逃げることはねえだろう。何もしやしねえよ。そう、お上品ぶるない。……お前は新宿のズベ公だろう。おれ見たことあるぜ』

『いいえ、人ちがいです!』

弓子が思わず大きな声を出したので、そのあたりにいた観客がいっせいに彼女たちのほうを振り返った。弓子は急に恥ずかしくなって手をとられたまま、男と争うのをやめた。







すると男はそれをいいことにして、ぴたりと体を寄せると、彼女の細い帯のあたりに手を回して彼女を抱えるようにしながら一緒に出て、

『お茶でも飲もうや。とっても面白いところがあるぜ。案内してやるよ。俺は顛がきくからな』

と、なれなれしく弓子の耳に囁く。

弓手は返事をしないで、体であらそいながら、『よして、よして……』というふうにはねつけるのだが、男は図々しかった。男の指が弓子のやさしい背のふくらみにいたずらしかかるのを彼女は敏感に感じてキッと見すえると、男はひらき直って、

『お前、こんなヘンテコな小屋に入ったことみんなに知られていいのかい、──えッ、どうなんだよ──俺はお前のあとをつけていって、お前の家を見つけ、親や近所の人にいいつけることだってできるんだぜ。お前の行ってる学校だって、どこだか、しらべりやすぐわかるしな』

『…………』






こんな、娘が入ってきてはいけない猥雑な小屋へきてしまったという弱味が自分にあるだけ、弓子はそういわれると争う勇気がくじけた。怒らせたら何をされるかしれないと思うと、このままお茶ぐらいつき合って、うまく別れたほうが利口だと、とっさに思った。

そしてこんなところに来てしまった自分の軽率さが今さらのように悔まれ、胸が不安におののくのだが、その不安のなかに一点のただれた好奇心がまじっているのはどうしたことだろう。

男は片腕でまるで恋人を抱くように、おとなしくなった女をかかえながら、体をぴったりくっつけ、舞台が濡れ場などにくると、

『うへー、見せつけるねェ』




などと露骨に弓子に囁いたりする。男はあくまで、弓子を不良少女と思いちがいしているらしい。弓子はそれをいいことにして、この男をだまし通そうと心に決めた。知った人がひとりもいないという情況が、弓子をその優しい容姿に似ず大胆にさせたのだった。



たらい回し



それから一時間後、二人は肩をならべて、ごみごみした飲み屋横丁に入っていった。軒を並べた安食堂や飲み屋から揚げ物の安油や暁き鳥の匂いが吹きこぼれて、ムッとなまあたたかく彼らを包んだ。その中の一軒へ、

『よう、入れよ!』 男は気やすくアゴをしゃくって弓子を先に入れ、腰かけさせると、

『ラーメンふたつ。ここのソバは池袋一うまいんだぜ』 と自慢した。

案外、人の良い男かもしれないと弓子はふと思った。小屋の中でもそんなにひどい事なかった。勿論、乳房のふくらみや、お尻の割れ目を撫でられたことは事実だけど、彼女がいやがるとそれ以上あくどいことはしなかった。

『私、ほんとに、こんなところははじめてなんです……』

弓子はやっと落ちつき、あたりを見まわした。

『お前は俺が思ったよりウプなスケなんだな俺はまた、あんな小屋に入っているからすごいズベ公と思ったぜ』

男が好ましそうに弓子を見やったときだった。表ののれんを分けて浴衣を着た年かさの男が入ってきた。32、3の痩せた顔色の悪い男である。全体に凄みがあって、どう見ても堅気の人間ではない。男はそのまま奥へ通ったが、入りぎわに弓子たちのほうをジロッと刺すような眼で見て奥へ消えた。

すると弓子の相手の男は、さっと顔をこわばらせて、

『あ、まずいや、出よう!』 と、あわてて弓子の腕をとった。

『あら、まだ、おそばを食べて……』

『なんでもいいから早く!』

男は一刻も早く消えたいようにうろたえている。が、その時はもうおそかった。すぐ奥からいまの男が追ってきた。

『まてよ安公。そんなにあわてることはないぜ。ゆっくりソバぐらい食っていくもんだ』

そしてニュッと二人の前に姿を現わした彼は自分から先に表へ出ようとした安公の襟をすばやくつかんでいた。

『なにしゃがるんでえ』

『おまえ、色事は金を返してからにしろよ。どこからくわえてきたんだ、この娘は?』

その男は、立ちすくんでいる弓子の華やかな着物姿をじろじろと見まわしながら、低いがドスのきいた声できいた。男の眼には蛇のような冷たい光がある。弓子は裸を見られているようにゾッとなった。薄ものの和服だから、彼女のムッチリとした体の曲線があらわになっているのだ。

『なにいいやがる。イカサマばくちの金なんか……』 いい終わらないうちに、

『何、なんだって、このヤロウ。一人前の口をききやがって!』

と男の挙が、安公という男の脇腹をぐんとついた。

『ウ……』安公は腹をかかえて、他愛なくその場にくずれ落ちた。それを見て、とっさに身の危険を感じて逃げ出そうとした弓子も、ハンドバッグをもっている腕をグイととられてしまった。

『はなして! なにをするんです!』

そんな弓子の必死の抗議もまったく無視された。

『安、ごくろうだったな。どこでくわえてきたのか知らねえが、この可愛い娘は、金のカタにちょっと借りていくぜ。すぐ返してやるからな』

男はしゃがみ込んだ安にささやいている。

『とんでもねえ。そいつは俺のものだ。俺がいま、そこで……』

起き上がろうとする安のアゴを、男は容赦なく草履の先で蹴った。にぶい音がして安はまた地面に崩れた。

弓子は重大な危難が身にふりかかってきていることをさとったが、ふりほどくこともできない。草履がぬげ、ハンドバッグも落ちてコンパクトやお白粉が無残に散ったが、それをひろう余裕さえあたえられなかった。



むき出しの太腿



荒れ果てた空屋の一室らしかった。

十畳はどの広さの部屋のなかに、弓子は無理矢理引きずり込まれ、そこに転がされていた。細い手首は荒縄できりきりと後ろ手に縛られ、その部分へ紅を散らしたように血の色がにじんでいる。それでも必死の力をふりおこして、起き上がろうとすると、いきなりガンと例の男に肩を突きとばされた。

『ああ、何をするの?……離して、お家に帰して!』

転がりながらも処女の羞恥で、ひろがりがちな両ももをぴったり合わせて叫んだ。しかし裾がひろがるたびに、甘ずっぱい香水の匂いと入りまじった女の肌の匂いが、あたりにただよって男を刺激するようだった。

『お家へかえりてえだとよ。へっへへ! 可愛いこというなア、若い娘っていうのはよ』

男は、一人ではなかった。いつの間に集まったのか三人──弓子の周囲に立ったりしゃがんだりして、この見事なショーを見物していた。

『おめえ、あの変態ばかりやる芝居小屋へ一人できて見てたんだってな…よっぽど好きらしいな。こいつは─』

『へえ、そうかねえ。いや、よくそういう話を聞いていたけど、ほんとうに苛められたり縛られたりするのが好きな女なんているのかねえ』

『けどよオこんな可愛いムキ玉子みてえな顔をした子がそんな変態のエッチを好きだっていうのは、いいねえ!』

口々にそんなことをいい合っている。

『だからよ。こうやって縛られたり苛められたりしていても、ほんとうはうれしいんだよ、このお嬢さんは』

なかのひとりがそういうと、ほかの二人も愉快そうに笑った。

『ああ、いいわ。たまらない……もうダメ、どうにでもしてェ……か』

 女の声色を使ってそんなことをいい、またみんなでどっと笑い合うのだ。男たちの視線と言葉で、散々になぶられて弓手は汚辱にうちふるえ、全身の血が逆流する思いだった。まだ手こそかけられなくとも、弓子の体はもう男たちにべたべたに汚されたのもおなじなのだ。それなのに、

『どうだい。この膝小僧のムッチリした白いこと……ええ? この辺のまるみなんか、なにかこう、がぶっとむしゃぶりつきたくなるじゃねえか』

と、男のひとりは乱れた裾からむき出しになった膝頭や太腿のあたりをソロソロとなぜたり、イヤらしくつまんでみたりする。そのたびに弓子はゾーッとふるえあがり、深い汚辱感に苛まれる。そして、力を入れてひらくまいとすればするほど、

『そうかい、そうかい。うん、こうするのかい。こうやってもっとよく見せてくれようというんだな。すまないなあ』

わざとその反対のことをいって、くすぐったりする。若い娘の心理を充分計算に入れてのことだった。次第に、むっちりと張った人にも見せないふとももがつけ根のほうまでむき出しになって、豊かなヒップの丸みまであらわになってきた。そのうえに気持と体の両方から責められ、肌にじっとりと汗をかいて鈍く光っているのが、いかにも男の心をそそるなまめかしさだ。

『ああ、許して……もう勘忍してください。ああ、やめてェ……』

死にたいほどの恥ずかしさに耐えられなくて、頬を涙でベタベタに濡らした弓子は、甘えるように訴えるように悲鳴を洩らした。その口を封じないのは、わざと弓子にそういわせて楽しもうとするのだろうか。そういえば『いや』といったり『よして』と哀願したりすることは、いっそう男たちを喜ばせることになる、むしろじっと黙って耐えていることがいちばんだと弓子にはわかっていても、やっばりそのときになると口から女の甘い訴えがでてしまうのだ。



なんでもします


弓子は今日、和服の下に薄いピンクの腰巻をしていた。そして、その腰巻の下には和服用のほとんど透き通るくらいのパンティをはいている。でもそれは、着物の表にすけないように蝉(せみ)の羽のように薄い。

弓子は死にたいほどの羞恥に、露わにされた脚をきゅっとつぼめようとするのだけど、そのたびに男たちは何やかや弓子をからかいながら、膝頭をひらいてしまう。

『ああ……』

悲鳴をあげて、体を海老のように丸めようとすると今度はその体を突き転ばして、うしろから猥雑な笑声を浴びせかけるのだ。






弓子は、芝居で責められる女を見ているとき、あんなに妖しい刺激を感じたのに、いざ自分が現実にこうして汚されいたぶられてみると、ただ怒りと恥ずかしさとでいっぱいになり、すこしでも喜びを感じるどころではなかった。

そのうちに、はじめは冗談半分だった男たちが、だんだんエキサイトして、あくどい行為をやりはじめた。

弓子は、生きた海老のように、縛られたまま、何度もピョンピョンとはねた。

悲鳴と泣き声が交錯するがどうすることもできなかった。

さすがに男たちの声がひくくなり、熱っぽいかすれたようなささやきを交わしている。そのうちのひとりがいった。

『おい、もういい加減にしろよ。親分に知れたら叱られるぜ。なにしろ親分は初ものがお好きだからな』

弓子はぎょっとした。この三人以外にまだ親分という男まで現われるのだろうか。
彼は自分に何を要求するのだろう!

『ねえ、今の間に帰して、お願い!──どんなお礼でもします』

彼女は恐怖に体をふるわせながら、眼に必死の媚びを浮かべて三人の男たちの顔を見まわした。

だが、むろん男たちは取り合わない。

『ヘッヘ……なんでもしますってさ。じや俺たちの足の指でも、その可愛い紅い唇でしゃぶってくれるのかい』

そういって、どっと笑ってから、

『おう、そうそう。お嬢さん、喉が渇いただろう。どれ、水でも飲ましてやろうじやないか。さあ……』

妙にいやしい笑いを浮かべながら、なかのひとりがジョッキに水を一杯もってきた。実際に弓子は喉がひりひり渇いていたのだ。だが、その水は、塩を入れた水だったのだ。飲めば飲むほど喉が渇く。



はげしい尿意



弓子は手を後ろに、くくられたまま、男のひとりに頸(くび)をもち上げられ、そのジョッキから可愛らしい唇へ水をそそがれた。思わずごくごく呑み込んでから、ハッとあることに気がつき口を閉ざそうとしたが、もうおそかった。

 男たちは、わざとやさしい口調で

『さ、どんどん呑みな。いくらのんでもいいんだよ』

と言いながら、首を振っていやがる弓子の口を割って、次から次へ水を流し込んだ。どんなに拒否しょうと思っても、口を仰むかせ、鼻をつままれると、いやでも口を開かざるを得ない。ジョッキに四杯も五杯も飲まされて、弓子は恥ずかしさに真っ赤になりながら、体をもんで我慢していたのだが、その我慢も限度に達して、やっとその願いを口にした。

 男たちは、その言葉をやっと聞けたというように頬を引きつらせながら、

『トイレなんかねえよ。もうすこし我慢してな。いま親分が来るからよ』

 とからかうようにいう。そして腰をモジモジさせる弓子をみだらな眼つきで眺め回している。親分が来たら、どうしようというのだろう。弓子はその辛さに堪えているたけで、汗びっしょりになっていた。

『親分が来たぜ!』

突然誰かが叫んで、皆がいっせいに頭を下げた。破れたふすまを開けて入ってきたのは背丈が少年ほどしかないせむし男だった。

さすがに着物はいいものをぞろっと着ていたが、それが彼の風貌を快して引き立ててはいない。顔はゴリラに似ていた。いや顔ばかりではない。手も足も剛い黒い毛におおわれしなびたその肌の感じまで、獣じみていた。

だが、彼は、自分のその風貌を恥じてはいなかった。

充分に威厳をつくって

『これがその娘か』 とまわりの者にきいた。声は聞きとれないくらいしわがれていた

『なぜ、こんなに汗をながして苦しそうにしているんだ』

『へへ、それが……』

男のひとりがわざとしたり顔で報告した。

親分はニヤリとしながら、妙に光る眼で、弓子のムッチリと盛り上がった腰のあたりをジロジロ眺めていたが、子分たちへ何か合図するように、顎をしゃくった。



見られる恥辱



娘としてこんなに恥ずかしいことがあるだろうか。

それは死ぬより辛いショーのはじまりだった。それにくらべれば、いままで散々に受けたいたずらなど、まだましな思いさえする。ここへ連れてこられたとき、すでにある程度の虐待は予想し覚悟したことだったから。だが、こんなことまで強制されようとは……

だが、そう思っても我慢できることではなかった。弓子は、いま、後ろ手にくくられたまま、男たちの手で透明なガラスの器の上にまたがされていた。髪をつかまれ、肩をささえられて、弓子は無残な姿のまま、わずかな身動きさえできないのだ。

『どうしたい、お嬢さん。遠慮していると、体にわるいぜ。ひとりでいると思えば恥ずかしくないだろう』

そんなからかいをやさしくいわれたが、どうしてひとりでいるなどと思えるだろう。

『あ……』

やがて弓子は切なく呻いた。それが限度だったのだ。──

男たちは冗談をいうことも忘れ、その弓子の様子をあっけにとられたように見ていた。その様子が珍しかったばかりではない。むしろそれは感動的でさえあった。

『さあ、それじゃ、横にしてごらん。きれいなお嬢さんをおれがゆっくり看病してやろう』

親分は低い声で男たちに命じた。ゴリラそっくりの顔に血がのぼって、眼がギラギラと光っている。

たちまち弓子は、仰むけに横たえられた。四肢を男たちにガッシリと押さえられているので、どんなにもがいてもまったく体の自由はきかない。ただ歯を喰いしぼり、呻き声を洩らして耐えているだけだった。

そうだ。弓子はただその情況に耐えるほかはなかったのだ。それが彼女にできる唯一のことだったのだ。

こうして、ひとり寝の床のなかでひそかに妄想にとりつかれていた娘は、手ひどいワナのなかで、あまりに無残に美しく花開いていったのだった……

弓子の暗い青春は、こうしてはじまった。

将来、弓子がしあわせな結婚をすることがあっても、はじめて女になったあの日のことを彼女は一生忘れられないにちがいない。




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