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囚われの美蝶
美しい幽閉者



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(一)下女と若奥様


『奥さま、お目醒めの時間ですよ』 女中兼付添看護婦のサキの声がする。

美香がうっすらと目を開いたとき、もうベッド・ルームの鎧戸は開け放たれて、朝風がカーテンを揺すっていた。

ベッドで美香の上体を蔽っていた毛布を乱暴に剥ぎ取られ豊満な白い乳房がぶるッと震えてこぼれ落ちた。

毛布の下は全裸だった。サキの手で毛布を剥ぎ取られた美香はピクッと白い獣のように体を縮ませる。慌てて細っそりした裸身を動かして、思わず眉をしかめた。背に廻した両手首はすっかりしびれ切って、まるで他人の腕のようだった。昨夜眠りにつくときから、後手の手首に手錠をかけられたままだったのだ。


『痛みます?』サキは心配そうに覗き込む。

『あたり前じゃないの』怒りで美香の声は棘をふくんでいる。

『お可哀そうに』

サキは肥った赤ら顔を曇らせ、そっと掌で珠のような乳房に触れる。

『さすってさしあげましょうか』

『いいの。ほうっておいて』






美香は嫌悪の色を浮かべた。肥満した中年女の湿った指先が肌に触れると、ぞっと鳥肌立つ思いである。男の掌で乱暴に扱われるよりもおぞましい感じだった。カーテンのレースを透かせた日光が、美香の逞しい乳房やぽってりと油のういた腹部のうえに落ちて網目模様を描き出している。裸女が白い裸身をくねらせると、肌の上の網目模様もかすかに揺れ動いた。

『でも、もう起きてお化粧なさいませんと……且郡さまのいらっしゃる時間ですわ』

『わ、わかってるわよ』 手錠につけられた鎖が鳴って、美香は泣き声を出した。

『乱暴しなくたって起きるわよ』

 言葉遣いこそ女中らしく丁寧だったが、サキは乱暴に美香の後手首の鎖を引き摺ってせきたてるのだ。

美香はグラマーな重量感のある肢体をベッドからずり下ろす。後手錠をかけられているので不自然な動作だった。それでも素足を床に踏んでヨロヨロとお尻を揺すりながら立ち上がった。

身震るいするたびにゴムまりのょうにはずむ大きな乳房。艶やかに脂肪をのせてあえぎつづけている白い腹部。──1メートル68センチの長身が長身には見えないほどの肉づきのよい裸体である。後手に縛られているので、自然にグイと胸を張ったかたちになり、豊満な乳房がいっそう誇らしげに桜色の乳首を宙に押し上げている。

『さ、奥さま、お歩きあそばせ』

そのサクランボのように紅色に熟れた乳首の先端を指先でぎゅうッとつねり上げて、サキは美香の咽喉元から悲鳴をしぼり出す。

『なッ、なにするのよッ、痛いじゃないッ、て、手をほどいてったらッ』

美香は大きな瞳を剥き、かたちのよい鼻孔を怒りにわななかせているが、後手に縛られている悲しさ、乳房にまといつく下女の指先を払いのけることができない。すると、今度はサキは剥き出しのヒップを掌でピシャッと叩き、縛られた美香を家畜みたいに浴室のほうに追い立てて行くのだ。

『そんなに打たなくたって、歩けますッ』 素裸で鎖につながれた夫人。

 哀れな若妻の後手の鎖をとって引き立てて行く女中のサキ。

 ──まるで話が逆である。

 だが、これでも美香は戸籍上はれっきとした小日向家の夫人なのだ。

 美香はふつうの人なら目をそむけたくなるようなことを毎日強いられている。

若い美香は、はじめのうちこそ必死で反抗した。だが、幾度もおなじことを繰り返されると、いやでもそれに馴れてくる。『いやだ』と思う気持が、『仕方がない』というあきらめに変り、いつのまにか女中のサキにすら柔順にひれ伏すような気持になっている自分に気づいて美香は思わず愕然とすることがあるのだ。

『さあ、奥さま。おとなしくしてね。朝のお化粧の時間だわ』

『なにも、こんなに縛ったままで…』

溶室の一隅に後手の鎖をつながれながら、思わず、うなだれた美香は泪ぐんでしまう。クスン、と悲しげに鼻を鳴らし、素足で浴室のタイルを踏んだまま、くねくねと裸の豊臀を揺すっている。

『仕方がありませんわ。奥さま。みんな旦那さまの御命令ですものね。どうか悪く思わないでね』

浴室で、まず朝の日課の浣腸を受けてから、美香はシャワーを浴びさせられる。それがすむと入浴、牛乳風呂で、全身をみがき上げてからの美容マッサージ!全て、全裸で鎖につながれての作業で、小柄なサキは、家畜の手入れをする下女のように見える。

顔の化粧。唇に引かれるルージュ。指先のマニキュア。両腕のもげたキューピー人形のような姿で、縛られた美香はなすがままに任せている。おしまいに腋の下や乳首、股間にわたる隅々にまで香水を振りかけられながら、充分にバスの湯舟で蒸された美香の肌は、匂うような美しさで薔薇色に輝き、縄尻の鎖を握り締めたサキですらうっとりとした表情で思わず声をあげてしまうのである。



(二)奴隷妻ミカ


老人は朝のめざめもはやい。奴隷妻の美香が朝の化粧を終えて姿を見せたとき、小日向老人はもう朝食を終えてサン・ルームで新聞を読んでいた。

『おそかったな』 老人は待ちかねた様子である。

『また、言いつけを守らないで、サキを手こずらせたんじゃないのかね』

言葉遺いこそ優しいが、裸身の奥までを射ぬくようなまなざしである。撚った縄を並べたような深い皺が刻まれた額の奥で、鋭い目がキラリと光った。






『ち、ちがうわ、パパ』 美香はあわてた。

『ミカ、いつものように利き分けのいい娘になってましてよ。ただ……』

美香はほっそりした首節に犬の首輪を装填されている。まるで可愛いペットみたいな姿で、怖そうに裸身を震わせると、豊満な乳房がぷるッと身震いし、首輪の鈴がリンリンと涼しい音をたてて鳴り渡るのだ。

『ただ…どうしたのかね』 老人の目つきがけわしくなる。

すると、太った中年女のサキが老人のかたわらににじり寄って来て、素速くなにかを耳打ちした。

『ふむ。やっばり、そうか。それで遅刻したんだな。…だが、寝起きから悲鳴を聞くというのもなんだな。遅刻の罰はあと廻しにしよう。…ミカ、近寄って来て、体を見せなさい』

美香はいわれた通りにした。老人の命じるままに、立った姿で前を向いたりうしろを向いたり。後手錠をかけられた裸身をジロジロと穴のあくほど眺め廻されるのだ。

『きれいな肌だな。すベッこくて、こうしてなで廻しているとビロードのように肌理こまかな柔らかな手触りがする。』

老人は指先で乳房をさかさに撫であげた。

『餅肌……というんじゃろうな。こうしていると、気が狂いそうになって来る。もうどこへもミカをやりたくなくなって来る。いつも縛られていてつらかろうが、これもミカを愛するあまりのことじゃ。可愛いミカをどこにもやりたくないという想いから出たことなのじゃ』


美香は耐えている。じつと目を閉じ、歯を食い縛って、ミイラのようにひからびた老人の指先が瑞々しく張り切った乳房やふくよかな腹部の肌を撫でさするおぞましい感触に耐えつづけていた。気狂いじみた老人の独占欲をまのあたりにするのははじめてではない。夫婦といっても、小日向老人と美香は親娘ほども……いや、老人と孫娘ほども年齢の開きがあるのだ。

キャバレーのゴー・ゴー・ガールをしていた美香が端麗な容貌と均斎のとれた肉体美を見梁められて小日向老人と結婚したとき、同瞭の娘たちの誰もが、『お金のために結婚したのだ』と嫉ましげに囁き合ったものだ。

60才を過ぎて大病をしてから、小日向宅人は、だれひとり身寄りのない体を看護婦兼女中のサキに見守られながら、高級住宅地にある広壮な邸宅でひっそりと暮らしていた。

老人に余命がいくばくもないことは目に見えている。死ねば莫大な遺産の大部分が新妻の美香の懐に転がり込むことは確かだった。そのうえ、すでに男性としての能力を失った老人と一緒に生活しながら、逆境に育った美香にはトイレが、4つもあるような大きな屋敷に住むことはまるでシンデレラ姫なったような新鮮な体験だったのだ。

何ひとつ不自由のない毎日のなかで、美香のただひとつの不満といえば、老人の衰えた肉体が美香の若い生理的要求に応えてはくれないことであった。美香はいっそうハデに浪費するようになり、一人で夜遅くまで遊び呆けることが多くなった。これまで我慢して来た小日向老人の独占欲は美香の浮気に気づいたとき狂奔した。

ある夜、遅くなって帰宅した美香に裸になるように命じると、老人は太って逞しい女中兼付添看護婦のサキと二人がかりで突然、彼女に襲いかかった。美香の裸身を後手に縛り上げると、大きく両足を開いた恥ずかしい格好でベッドに磔けてしまったのだ。裸の美香はベッドに縛りつけられたまま、老人を呪い、女中のサキを罵倒した。

だが、どんなに身悶えたところで純白のシーツのうえで後手首にかけられた手錠はビクとも動かなかったし、二人がかりで押えつけられてベッドの両端に結ばれたスラリと延びた両足は大きく拡げられたまま、股間の襞や愛くるしい女体のすべてまですっかり覗き見せてしまっていた。

『いまに見ておれ。浮気の証拠をつきつけてやるからの』

老人は老人でそんな独り言を呟きながらベッドの上でしきりに哀額を繰り返す若妻のあられもない肢態のまわりをウロウロと歩き廻っていた。

付添看護婦のサキには医師の心得がある。

鉗子や匙状器具──。 子宮拡張器や子宮鏡──。

開かれた蒼白い股間の部分を照らし出すライトやものものしい手術道具までがベッドのかたわらに並べられた。

『いやよ、いやッ、……恥かしいわッ、お願いだから許してッ……』

泣き叫ぶ若妻のあられもない肢態を冷ややかに見下しながら、中年の看護婦は口許にうっすらと微笑すらうかべていた。同性のサキに自分の肉体の秘密を暴かれる事を思うと、美香は気が狂わんばかりの恥ずかしさだった。
股間の微妙な部分がライトの光に隅々まで照らし出され、美香の開かれた肉体はベッドの上で嵐の中の小舟のように激しく揺れ動いた。それでも、サキは裸女が縛り上げられているのを良い事に、秘められた柔肌の奥までを探り廻り、ついに綿棒に付着した男性の精液を小さな標本ガラス坂のうえに採取することに成功したのだった。

動かぬ浮気の証拠を握った小日向老人の態度はその日から一変した。

老人は美香を裸のまま屋敷内に監禁した。どんなときにも逃亡をおそれて手錠をかけ、見張り役のサキをつけて置くことを忘れなかった。その呪わしい夜以来、鎖につながれた『奴隷妻ミカ』が誕生したのだった。



囚女の朝食


優雅なクラシック音楽がステレオから流れ出し、ひろいサン・ルームにはまばゆい朝の光が満ち溢れている。

身体検査を終えると、はじめて美香は朝食をあたえられる。

入念に彫りものをほどこした英国製のテーブル。テーブルのうえの銀の燭台。コーヒー・カップやパン皿。色とりどりのフルーツを山盛りにした果物の鉢。美香はそんな食卓をはさんで老人と向かい合い、背の高い木製の椅子に裸の尻をペタンと据えて腰を下ろす。一糸纏わぬ生まれたままの姿で、後手錠ははずして貰えなかった。大柄な白い裸体を晒して食卓に向かう美香の肢体はどこか泰西名画の一場面のようだ。

 小日向老人は目を細める。

『ミカ──今朝はまたいちだんと綺麗だよ。まるで食卓に花が咲いたようだ』

 美香は耳朶まで朱に染めて、体を固くしている。

『恥ずかしいわ。ミカのこと、そんたにジロジロ御覧にならないで』

『さあ、アーンと口をあけて……』

老人はスプーンを取り上げる。まるで生まれたばかりの赤ん坊に食事させる父親のようだった。たのしそうな表情で、後手錠をかけられた美香の唇にスープを運んでやるのだ。

『ホラ、新鮮な野菜サラダだよ。美味しそうだろう?…もっとも、ミカの乳房のほうがずっと美味しそうだがね』

豊満過ぎる乳房がテーブルのうえにあふれ出している。それはまるで採りたての水密桃のように食欲をそそった。老人の視線を意識して、美香が恥ずかしそうに、体をくねらせるとゴム毯のように弾力のある乳房は、おたがいにこすれ合うようにしてユサユサと揺れる。誘惑に耐えかねたょうに、老人はツと手をを延ばして小さな珊瑚色の乳首をつまんで見る。敏感な個所に触れられて、美香は体を反射的にピクツとさせながら悲鳴をあげた。

『お願いよ、パパ。おイタなさらないで』

『ふッふ、小さくて可愛らしい。まるで桜桃のようじゃ』

姓的に不能になってから、老人はかえって執拗になっている。老人はことあるごとに鎖につながれた若い肉体を、なぶりものにした。まるで美香の若く瑞々しい肌に陰湿な嫉妬の炎を燃やしているかのように、ひからびた指先で艶光りする肌を撫でさすったり、わざと痛めつけて見たりするのである。

『おや、もう食べないのかね』

『結構ですわ。ミキ、もうおなかが一杯』

『どうしたんだろう。今朝は食がすすまないようだね』

『奥さまは便秘気味なんですわ』 うしろから女中のサキが意地悪く口を添えて来る。

『食べないと健康に悪いよ』 老人の視線が剥き出しのヒップに落ちる

『ミカ、つらいわ。こんな惨めな格好で朝からお食事させられるなんて』 美香はうっすらと泪ぐむ。

食欲どころではない。下女のサキにまで軽蔑の表情で眺め廻されていると思うと、こみあげて来る哀しみで胸が一杯になって来るのである。

『食べなさい。パパは心配して言っているのだよ。健康と美容がいちばん大功なんだからね。ミカがいつも美しくしていることがパパのただひとつの生き甲斐なんだよ』

美香はイヤイヤをして見せる。頑ぜない子供のように首を振ると犬の首輪につけられた鈴が、バカにしたょうに、ひときわ高く鳴りひびいた。

『お食べ。いうことを利かないとパパにも覚悟があるよ』 老人は女中のサキのほうを振り返った。

『ステレオのヴォリユームをあげなさい』

『いやッ、鞭だけはいやッ……』

涼やかなピアノの音色をひびかせていたショパンの円舞曲がひときわ高鳴って、食堂の壁にウォーンと反撃した。ステレオのヴォリユームをあげたのは鞭音を消すためだ。女中のサキが細い乗馬鞭を振り上げた。

『お願いッ、打たないでッ。…』

『それじゃ、アーンと口を開きなさい』 美香は薄く紅を引いた唇を開く。

『そうじゃない。わしのいうのは下のほうの唇じゃ』

『? ……』

『膝を開くんだ。うんと大きくな。言うことを利かなかった罰に下のほうの口から食べさせてやるぞ』

『な、なにをおっしゃるのッ』

美香は青褪める。血の気の失せた下唇が抗議するようにワナワナと震えた。そんな奴隷妻の感情を無視するように、うしろでサキが威蘇の鞭音を鳴らした。

『ひ、酷いわ。あんまりですわ』

愚図愚図していると、背後から乗馬鞭が襲って来るだろう。哀しげに蛾眉をひそめながらも、奴隷妻美香は命じられた通りにする。

生まれたままの姿で、少しずつ両膝を開いた。こわまでは仕組まれた習慣だったが、それでも女性の本能で、いつもためらいがちになる。うなだれた頬を羞恥に染めながらも、後手に縛られた美香には開かれて行く股間を、おおう両手を持っていないのだ。

『ほッ、ほッ、……その調子』老人の機嫌がよくなった。

『良いコだ。背筋を延ばして胸を張って…思い切り両足をひろげるんだ…そう、そう…サキ手伝ってやりなさい』

2本の大理石の円柱のように太く達しい大腿が割り裂かれる。白光りする腹部の下に可愛らしい秘密が覗き見えた。奴隷妻の下腹部は、いつものように綺麗に始末されている。毎朝サキの手で幼女のように剃り上げられるその部分は薄く紅をさして化粧され、香水の匂いが濃厚に鼻を突いた。

『さあ、アーンと口を開いて』

老人は果物皿のうえからサクランボの粒をつまみ上げると、美香の開かれた股間のほうに近づける。

『ああッ、いやァ……お願いッ』 眉根の間に縦皺を刻んだ美香は思わず声をあげて白い顔をのけぞらした。

 背で鎖が金属性の音をたて、鳩尾がはげしく喘いでいる。

 横からサキが両手を延ばした股間を押しひろげょうとしたからだ。

『ほッほ、どうじゃ、もう、……こちらのほうの唇はしきりに食物を欲しがってヒイヒイ泣き喚いているようだぞ』

 椅子のうえに開かれた薔薇色の柔肌が艶やかなサクランボの粒を呑み込んで行くのをみつめながら、小日向老人の細めた日のなかに恍惚とした光がよぎって行く。



黒い拘束衣


 朝食を終えると、奴隷妻の美香ははじめて着るものをあたえられる。

 着物といっても黒皮製の胴着だった。

女性の衣服といえば、ふつう、まずなによりも最初に乳房や下腹部のような恥部を蔽い隠すのが原則である。だが、この奴隷妻用の胴着は反対であった。体の曲線に沿ってピッタリした黒皮の二つの乳房にあたる部分だけが丸く切りぬかれているかそのうえ、下腹部を蔽うものはなにひとつなかった。言って見れば、乳房や股間だけを蔽うビキニとは正反対に、その払ずかしい部分だけが露出するように考案された衣装なのである。





それだけではない。黒い皮製の胴着はウエストにあたる部分に幾重にも皮紐がついていて、コルセットのように胴体を細く締め上げることができる。だから、サキの手でこの衣裳を着せられるたびに、ほっそりした腰部をいっそう細く締め上げられて息苦しい思いをしなけれはならなかった。

黒皮服の拘束衣を着せられ踵の高いヒールをはかされた美香はつづいてサキの手で美容体操を強いられる。
優雅なレコード音楽と共に、後手に縛られたまま、美香は白い体を屈伸させたり足を開いたり。少しでも命令に違反すると、調教師のような女中のサキの鞭が剥き出しのお尻に容赦なく炸裂するのだ。

『奥さま、これも旦那さまの御命令ですからね。サキの命令は旦那さまのお言いつけと思って守って頂きます』

女中兼付添看護婦のサキはふたことめには鬼の首でもとったょうに『旦那さまの御命令』という。もともと病気がちの老人のために看護婦の心得のあるサキが女中として雇われたのだったが、そのサキは今ではすっかり若夫人の調教係になってしまっている。

いや、それどころか、かつては女中のサキを顎で使っていた若夫人の美香を調教することに、サキはひそかな復讐の喜びを見出しているようであった。美容体操を口実に、サキは若夫人の肉体を痛めつけたばかりではない。まるでペットのように芸当を仕込んだりそのスラリと均斎のとれた四肢にわざと猥らなポーズを取らせてなぐさみものにしたのだ 愛玩用の美しい人形。……いまの美香がそれであった。

じっさい、牛乳風呂で肌をみがき上げられ美香の白光りする裸身はマネキン人形のようだった。奇妙なことにほ、美容体操と称して付添看護婦のサキの手で柔軟な肉体を虐待されればされるほど、若妻のキリリと引き締まった肢体はいっそう輝かしい美しさを獲得して行ったのである。

午前中の美容体操のコースをひと通り終えた美香がふたたび老人の前に引き出されたとき、小日向老人は温室のなかで熱帯植物の手入れに余念がなかった。

大きなガラス張りの温室は母屋と隣接して建てられている。まだ春は浅いというのに温室のなかに足を踏み入れると、まばゆい陽光があふれ返つてむうッとした熱気がたちこめ鉢植えの蘭の花が見事な花をつけてたわわに咲き誇っていた。

『ほう……』

後手錠の鎖をサキに取られて、高いハイヒールの足を危なげに踏みしめて近づいて来る美香の姿に老人は嘆声を発した。

『これはまた見事じゃ』

黒皮の拘束衣がまろやかな体の曲線に治ってキリリとウエストを引き締めている。くびれあがった細腰はまるで黒蟻の胴体のように豊満な胸許や逞しいヒップをいっそう大きく強調して見せているのだった。

そればかりではない。

黒皮服の胸許に丸くぬかれた孔からはこれ見よがしに乳房の白い肉の盛り上がりがあふれ出し、くびれた腰部の下には横に張った骨盤が艶やかに脂肪を載せて白光を放っているたっぷりした臀肉をつけていた。爬虫類の皮膚のようにヌメヌメとした黒皮の衣裳は裸の乳房やヒップのぬけるような肌の白さを際立たせながら、あまりにも見事なコントラストを生み出していたのだ。

『うまそうな肉じゃ。まるで白桃のようじゃ。こうしていると食べてしまいたくなる。』

老人は剥き出しの豊腎を掌でピシャピシャと叩く。叩かれるたびに、よく張り詰めた肉はぶるッと慄えながら太腿のあたりまで震えを波及させた。

『ああッ、いやあッ。お許しを……』

叩いたり抓ったりするのに飽き足らずに、老人は思わずガブリとふくよかな双丘のひとつに噛みついていた。

『ほんに、気が狂いそうじゃ』

狂え…もっと、狂えばいい……後手に縛られた不自由な体をのけぞらして悲鳴をあげながらも、美香は意地悪くそんなことを考える。美香の若い肉体に狂えば狂うほど、それだけ小日向老人の寿命はちぢまることになるだろう。そのぶんだけ美香が老人の遺産を相続する日が早くなるというものだ。

敗けてたまるものですか。その日まで、きっと耐えて見せるわ。……目を閉じ、歯を食い縛って老人の暴虐に耐えつづけながら、美しい奴隷妻はひたすら祈るように頭のなかでつぶやきつづけていた。



午後の散策



いい天気だ。久しぶりに散歩してどこかで夕食でも一緒にするか。──めずらしく小日向老人がそんなことを言い出したのはその日の午後遅くなってからのことであった。

老人は美香と連れ立ってタクシーに乗り、自宅から4、50分も走らせてから神宮外苑近くの散歩道で車を乗り捨てた。すっかり葉を落して枝ばかりになった街路樹がつづいている。冬の並木道の舗道づたいに、老人と美香は店のショー・ウィンドウを眺めながらゆっくりと歩いた。

 何カ月ぶりの外出だろう。

屋敷に幽閉されてからというもの、こうして戸外の空気を吸うのも着飾って歩くのも随分ず久しぶりだった。

 美香はめずらしく盛装していた。

御自慢の長い黒髪はかるくウエーブして背に流れ、ほそいうなじには純白のダイヤのネックレスが燦めいている。心持ち白い顔をもたげて歩きつづける肩先から、美香は高価な銀狐のオーバーを羽織っていた。

大きな黒眼がちな瞳。高貴な鼻筋。きりりと結んだ紅の唇。象牙で彫刻したような繊細な顔の造作。──日本人ばなれした美香の美貌は、どこにいても孔雀のように人眼を集めてしまう。そのうえ、豪華な毛皮のコートを身に纏っているのだからなおさらである。道行く人々はすれちがうたびに銀狐のオーバーに首まで埋まったグラマーな美女と、小柄な老人のふしぎな取り合せに目を瞠った。

『ああ……パパ……お願い。……もう、いいでしょ』 美香はときおり美しい顔を歪める。

フンワリと首まで埋まった毛皮のコートの肩先をはげしく揺すって見せることもある。

『どうしたんだ。はやく歩かないか』

『ああ、痛いわ。もう我慢できそうもないの。……どうか、休ませて……』

小柄な老人の体に自分の体をすり寄せると耳許で囁くように訴えかける。そんな二人の様子はいかにも仲睦じそうに映って、通行人の眼をかえって惹きつけるのだ。






『まだ歩きほじめたばかりじやないか。ダダをこねるんじゃないよ』

『ああ……つらいわ……』

舗道の石畳を歩きながら、美香は絶望的なため息をついて体を小さくする。この冬の寒空だというのに、驚くことに、毛皮のコートの下は素裸だった。

美香はブラジャー1枚、パンティ1枚すら身につけることを許されていない。素肌に毛皮のコートを直接身につけているため、身動きするたびに毛足のながいシルバー・オックスの毛の先端が美香の柔肌をチクチクと刺激しては耐えがたい思いをさせているのだ。

『わかるだろう。わしはもうミカをどこへもやりたくはないんじゃ。……ウ、フ、フ、……ミカの体は偶々まですっかりわしのものなんだからな』

美香はそッと首をすくめる。洋服や下着をつけていないだけではない。肩先からフワリと羽織った高価な毛皮のコートの下で、美香の裸身は無残にも後手にロープで縛り上げられていた。ふくよかな乳房の肉の上下にも、はっきりしたウエストにも、無慈悲な縄目が幾重にも食い入っていて、まるでソーセージのように弾力のある肌を締めつけているのだった。


『なにも、こんなにまでなさらなくとも』

美香は哀しげに睫毛をしばたかせる。ときおり美香がうめき声をあげるのも無理はなかった。

とりわけ無鯵なのは、オーバーの下で、首縄から乳房の間をぬけたロープの一本が腹部を通って股間から背後に廻して後手首につながれていることであった。太いロ−プの股縄は囚女の秘所にしっかりと食い入ってる。

そればかりか、股間のロープには大きな結び目が二個所もつくられていて、歩くたびにグリグリした塊が美香の体内深く食い入って来て美香を責めつけ切ない思いをさせているのだ。

『わしはこの店で買物して来るからね。すぐにもどる。ここで待っていなさい』

ショー・ウィンドウを覗き込んでいた老人が店のなかに消えると、美香は街路樹の下にただひとり取り残された。

 一人で置き去りにされると、美香は急に不安になって来る。

道行く人々が皆、美香に注目し、高価な毛皮のオーバーの下で素肌を薄められているのを見透かしている様な気がして心許なくなって来るのである。冬の街路樹の下で、美香は両腕のない人形のように立ち尽していた。

『ミカ……ミカじゃないの』 若やいだ声がした。

『あら、ほんと、ミカだあ』 振り向くと二人の娘が立っている。

美香にはその丸っこい顔に見覚えがあった。二人とも美香がキャバレーでゴー・ゴー・ガールをしている頃の踊り子仲間だった。

『あら、お久しぶり』

 うろたえながら、それでも白い顔に微笑をうかべて見せた。

『驚いたわね。すっかり見ちがえちゃったわ。綺麗になったのね』

耳許に揺れる銀色のイヤリング。うなじに燦めいている純白の宝石を鏤めたネックレス。それに首まで埋まったシルバー・フォックスの毛皮のコート。──二人の娘たちは豪華な衣裳の下で、美香がロープで後手に犇々と縛り上げられているといったい誰が知っているだろう。

『億万長者のお嫁さんになったって聞いてたけど、本当なのね』 娘の一人が吐息をついた。

『おしあわせそう……』

美香は心持ち顔を赫らめた。

高価な毛皮のコートの下の秘密を気取られまいとしてかすかに身じろぎすると、縄目が柔肌を締めつけて来る。股間に埋め込まれた結び目は女体を圧迫して、さっきから美香はわれ知らず体の奥から盗れ出し股縄のロープを濡らしつづけていたのである。

他人の目にほ見えない豪華な毛皮のコートの下で、乳房や細いウエスト、腹部から股間の敏感な部分にいたをまで、身動きするたびにジワジワと責めつけて来るあついあつい縄目の抱擁……。

その息苦しい感覚に、美香は自分の若い肉体を独占しようとする老人の執拗な触手を感じていた。

『どうもありがとう』 美香はあいまいな傲笑をうかべた。

『懐かしいわ。お二人とも、とっても元気そうね』

旧友たちが自分の体に触れぬように注意しながら、美香はほほえむ。だが、二人の娘たちは美香の謎めいた微笑の陰になにが隠されているかについては、少しも気づこうとはしなかった。




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