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雪俊遥犯禍帳
美しき白き人間吊り鐘



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もうこれ以上は一滴も飲めないという状態にまで水を飲まされた
彼女…映画界20年のトップ・スターの池広マリ子は、吊り鐘
のように吊られて、撞木で突かれる運命にあうのだった!






---------- <奇妙な出会い> ----------


池広マリ子のデビュー映画を見たのは、オレがまだ大学生だった時だから、彼女のスター生活は長い。かれこれ20年近くになるわけだ。

一口に20年と言うが、男と違って女のスターは、20年間トップ女優の座を占め続けるものはきわめてまれだ。結婚していなくなったり、ほんの端役に落っこちたりしたのは論外としても(実は圧倒的多数がその論外のほうだが)、結婚、離婚をくり返すやら、新劇に走るやら、テレビの司会者くらいしかできなくなったのやら……。

そんな奴なら沢山居るが、池広マリ子の場合は、この20年近くというもの結婚もせず、週刊誌に浮いた噂も書かせず、常に映画とテレビの正統ドラマの主役だけで、トップ女優の座を守り抜いて来た。

軽薄で安メッキのようにピカピカした生き方しか望めない今の日本の芸能界では、たぐいまれな、志の高い才女と言うべきだろう。オレはむろん、だから、池広マリ子は尊敬している。

そんな、池広マリ子と俺は、ヒョンなことから知り合った。有楽町のTという喫茶店の前で、ものすごい勢いで店から飛び出して来た彼女に、いきなりぶつかられたのだから、驚きもしたが、珍しい出会いに違いない。



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こちらはボヤッとしてた上に当たり所も悪かったらしく、はずみで俺はひっくりかえり舗道に寝そべってしまった。
いや、驚いたの、なんの。

『アラ、スイマセン。ごめんなさい。申しわけございません』

女は、お辞儀の100万べんも、くり返しながらオレを助け起こした。若い頃は、ツンツンしている事で、有名な女優だったが、今や愛想の良いこと…もっとも、よく考えてみたら、何も悪いこともしていないのに、衆人環視の中で、ひっくり返されたのはこのオレだ…これでツンツンしていたら、殺人未遂で訴えてやる!
甘く悩ましく少し重苦しい香水の匂いが、ツ〜ンと彼女の白いスーツの大きく開いた襟元から漂って来た。
オレは、その声と顔を近々と見聞きして、池広マリ子にまちがいないと知ったとたん、シマッタと思った。
最初からわかっていれば、とっさに脳シントウのまねをして、彼女の手で病院へかつぎ込んでもらえるのだが、あんなものはあんまり、時間をおいてかかったりするものではない。長い間あこがれていた美女にせっかく突き飛ばされる光栄に浴しながら、コネもつけられず別れるなんて、オレはなんてトンマな男だろうと思っていると、

『本当に、ごめんなさいね。私がコーヒーを飲もうと、カップを手にしたとたん、新聞屋のほうり込んだ小さく、たたんだ夕刊がカップの中にストンと、落ちて来たの…前にも2回、もそんなことあったのよ。きょうこそとっちめてやろうと思って、勢いよく飛び出したとたんにぶつかっちゃったの。ごめんなさい、軽率でした…』

オレも彼女の視線を追って、新聞配達の行くえを人混みの中に捜したが、テキもさるもの、いつまでもグズグズしちゃあいない。

『そうですか。ニックき新聞屋ですね。しかし、ボクにとっちゃあ、直接の加害者はあなたです』

『すみません、ほんとうに』

『そのあなたの加害者は新聞配達だ。するとボクは、見も知らない彼を憎まなければならないことになる。
しかし、そんなことできません。ヒューマニズムに反する』

彼女は妙な目つきでしげしげとオレを見ていた。おかしなことを言う男だ、と思ったらしい。

『わかりませんか、ボクはその新聞屋を憎むわけにはいかない。しかし、盛り場のまん中でひどいめにあわされたとなると、このみじめな気持ちを早く止揚して、彼に心から感謝できる人間になりたいんです。そういうふうに人間の行為を常に積極的に、前向きに評価したいというのが、ボクの人生哲学ですから』

彼女は妖艶に笑いこぼれた。

『わかりました。つまり、私があなたとお近づきになれば、あの新聞屋のやつ、イイエ、あの新聞屋さん、悪魔ではなくて、あたしたちの結びの神になれるってわけね。いいわ。おわびのしるしに、どこかで一献差し上げましょう。でも、抜け目ないわね、なんだか、あなたが今度はあたしの悪魔になりそう』

彼女は再び艶然と笑った。



---------- <人間針供養> ----------


マリ子の芸熱心は驚くべきものだった。38歳にもなるのに、彼女は常に徹底的に、身体を鍛えていたし、新しい役柄が決まると、一見そんなこと関係ないじゃないかと思うことまで研究していた。
裸にしてみると、色白で、肌に金属的な光沢があり、ツヤツヤとまぶしく、しかも、しっとりした潤いがあった。どう見ても、25〜6歳の肌だ。しかも太り肉で、胸肉が厚く、恰幅がよかった。セックスのほうには実に淡泊だった。きっとそれが彼女を、20年間、トップ・スターの座にとどまらせている秘密だったろう。

『困ったわ。あたし、変な役いただいちゃった』

あれ以来、彼女のヒモみたいに彼女のマンションに居すわっているオレに、彼女はある時、タイプ印刷の脚本を見せて相談した。

『この小吉っていう芸者の役なの…』

読んでみると小吉は、恋人を殺して佐渡に流され、囚人たちの一揆の計画を知るが、牢役人にいくら責められても口を割らない。そんな筋の展開になっている。映画の責められるシーンが年々あくどくなって行く、とこぼすのだが、それが本気でこぼしているのか、オレを挑発しているのか、よくわからなかった。

『オレに演出をやらせれば、おまえのからだを生かして、まだ誰もやってみせたことのない、あでやかで凄絶な責め場を作ってみせるんだがな』

オレは含み笑いしながら言った。芸熱心な彼女のことだから、だいぶ心を動かしたようだった。オレはコンテを書きながら吉報を待っていた。

『ねーえ、監督の問矢さんが、あなたに会ってみたいとおっしゃるから連れて来たわ』

果たせるかな〜?2、3日後に、マリ子が連れて来た紳士に会ってみたら、監督なんかやっているより、ギャング専門の悪役でもやったほうがよっぽど受けそうな、ヂョビヒゲをはやした、丸々と太った男だ。これが早撮りで有名な問矢監督だった。監督さん、どこかでオレの名まえを聞いていたとみえて、わりとわかりがよかった。

『マリちゃんには久し振りに汚れ役を、演じてもらう事になってるんですけど…何か良い構図はありませんか?』

オレは、考えていることは、かねてたくさんあった。コンテを何枚か彼に見せた。

『こんなのどうかね』

『ウーン、スゴい。スゴいけど、いきなりじゃムリですよ』

『残念だなあ。じゃ、こんなのは』

『お抹茶をどうぞ』、と言ってマリ子が、かなり高価な茶わんにようかんをつけて持って来た。

監督の置いたコンテを取り上げて読み始め、みるみる顔を赤らめた。

『いやだわ。あなたったら、こんなことばかり考えながら、あたしのヒモに納まってらしたの。しどいわ』

彼女は江戸っ子なのか、しゃれのつもりか、ひどいわをしどいわと言いながら、いやらしそうな目でオレをにらむ。それでも口もとは笑っている。

『取りあえず、このへんから始めるか』、監督は一枚のコンテをオレに示して、ウインクした。

それには【人間針供養】と書いてあるのだ。赤い顔のまま恐ろしそうにコンテをのぞき込んだマリ子は、チッと、ノドの奥で、小さな悲鳴をあげた。

『イヤーッ。勘忍して、監督さん。しどいわ』

問矢監督は、10通余りのコンテをポケットにおさめ、謝礼の小切手を切って上きげんで帰って行った。



---------- <ベランダ吊り下げ> ----------





翌朝、表のチャイムが鳴った。約束してあった時間に問矢監督は、助監督を3人連れて迎えに来た。オレは自分で立って行って4人を入れた。

『マリちゃ何処にいます?』

先頭に立ってサロンヘ入って来た。まだ学生服の方が似合いそうな一番若いアシスタントが、キョロキョロ、あたりを見回し、戸棚を開けて捜し始めた。




『簡単にわからない所へ隠してあるんだ。捜してみるかい』

オレがニヤニヤしているものだから、3人の助監督が、懸命になって捜したが、ついにわからなかった。

『実はね、ベランダの床下に吊るしてあるのさ』

連中、アッ!と驚いて、バラバラとベランダヘ飛んで行った。

普通の真四角なマンションだったら、ベランダの下なんかに吊るしたら、下の階の人たち皆に見上げられて、たちまち110番されてしまう。ところが、このマンションは、キャッスル(西洋の城)型とかいう、近ごろよく見るやつで、上へくほど部屋数が少なく、階段式にせばまるようになっている。この式だと、ベランダは下の階の屋根の上だから、うまく吊るせば簡単にはわからない。

オレは昨夜、ベランダの三面からゴムシートをたらして囲いを作り、そのまん中に、革のパンツを口中に押し込んで、厳重にさるぐつわした池広マリ子を、全裸にして吊り下げておいた。彼女は一晩中じゅう忍び音に泣き続けていたはずだが、下の階の人たちは何も知らずに、一家ダンランの夢をむさぼっていたに違いない。ちょっとサディスティックな楽しいいたずらである。

但し、全く外から見えないのではスリルがないから、つまらない…彼女は手足を縛って水平に弓なりに吊るしておいたのだが、ある程度の角度ならシートの端を斜めにかすめ、お腹の辺りがほんの少し見える様にしておいた。

わずかながら風があるので、シートのすそが時々そよぎ、まくれる。注意深い人が熱心にみつめていれば、ハンモックのように吊るされたマリ子のおなかばかりか、太ももやバストのへんまで、チラリチラリとのぞいて見えるはずだが、そんなに熱心に、きまった角度からシートのたれ下がったベランダをみつめている人は、まずいない。マリ子はもはやミーチャンハーチャンがキャーキャー言う年ではないし、このマンションでは古いほうなので、いまさら珍しがってみつめられることも、ほとんどないらしい。オレは安心して、日が高くなるまで放置しておいた。

夜中の頃はかなりの強風で、彼女の全裸は、何回となく、丸見えになったはずだが、明るくなるにつれて、風もやんで、彼女の白い腹のほんのピークが、シートの端からチラチラしている程度では、誰もが気づかずに通り過ぎてしまうはずだ。ただ、吊るされているマリ子にしてみれば、いつ自分のあられもない姿が皆の頭上に公開されてしまうか、その恐怖と屈辱とで、一瞬も気の休まるひまはなかったろう。

ベランダの羽目板を、5〜6枚、外して中をのぞくと、マリ子は死んだようにぐったりして吊り下がっていた。さるぐつわの白いタオルが涙でぐっしょりぬれ、手足の縄目がくびれるだけくびれ、おなかが予想以上にせり出して、ハンモックのからだが逆エビのように二つ折れになっている。

アシスタントの一人が、

『3人一緒に、あの背中へ飛び乗ってやろうか〜?』と言った。名女優もこうなっちゃあカタなしだ。

フロ場へかつぎ、おろして縄を解き、人工呼吸や全身マッサージをしてやると、彼女はやっと、ポカッと大きな目を、開いた。冷水を背筋に流してやると、意識が戻って来たらしく、いきなり、

『しどいわ』

あえぎながら、言いようのない恨みのこもる目でオレをみつめ、武者振りついて来た。裸の豊かな肩が鳴咽につれて震えている。名女優も、可愛いい女だった。



---------- <全身丸坊主> ----------


人間針供養】で、池広マリ子が責められる場面は、撮影所関係者だけに公開された。裸で拷問台に縛りつけられたマリ子は、まっかな顔をして不安そうなまなざしで、集まって来る人々を見ていた。傷口が化膿してはいけないので、針はすべて小間物屋から買って来たロウ紙に包まれた新しいやつを、封を切りながら使うことにした。

『拷問に先立って、全身の毛をそることにしよう』

俺が提案すると豊満な乳房まで真っ赤に染めてマリ子はサッと振り向いた。しどいわと、言いたいのだろう。悔しそうに俺を睨んでいる。だが、その口には革のパンティーとベルトでしっかりと、さるぐつわがかまされ、しまっている。

カミソリ使いの上手いアシスタントと脇役を、9人指名して、拷問台に縛りつけたままでマリ子の全身の毛をそることになった。頭、両腕、胸、腹、両の上肢、下肢を一人ずつ受け持って、アッ!という間に、全身くまなく、ツルツルのスベスベな体にしてしまった…涙をいっぱい浮かべているまぶたを、ひっくり返されて、まつ毛まで剃られていた。
勿論、頭は丸坊主の尼さんスタイルだ!次に、いったん縄をほどいて後ろ向きにさせ、後半身も、みごとな、ツルツルのスベスベ…肛門の回りの、うぶ毛などは、特別念入りに、剃り上げられた。そのまま立たせてみると、ぬれたように、全身がピカピカに、光ってまぶしい〜生ライトが、特別強く全身に当てられた。

『いやあねえ、可哀想で見ていられないわ〜』

見物の、女優陣の中から、さわやかな美しい声で悲鳴をあげたのは、清純スターの二階堂ユリ子だ。彼女はいやいや連れて来られ、左右から両手を押えられてしまっているので、逃げるに逃げられない。彼女は特別、大先輩で演技派の、池広マリ子を尊敬しているのだし、それは一般世間に知られているほど有名な話だから、彼女の見ている前でマリ子をはずかしめることには、重大な意味があった。ユリ子の声は誰でも知っている。ぎわついているセットの中でも、彼女の声は一筋の金糸を震わせたように、よく通った。ユリ子の声を聞くとマリ子は、ぐったりうなだれていた顔をキリッとあげた。涙を振り払って、むしろ明るくほほえんでみせた。と言っても、さるぐつわがきついので、よくはわからない。ただ、まなざしが微笑の時のように明るい光を放ったのだ。

ユリ子ちゃん、よく見ておおき、女優というものは時には、こんなみじめな姿にされてでも、耐えていかなければならないものなのよ、と言い聞かせているようだ。ユリ子を傍観させた効果はテキメンだった。堂々たる態度で、マリ子は俺に次の指示を催促するではないか、俺もまたマリ子の態度が急変したのを見て、イメージを変えてしまった。
問矢監督を呼んで、撮影所の中にいい柱のある所はないか、聞いてみた。格好がよくて、よごしてもかまわず、カメラワークがじゅうぶんきく柱でなければならない。

『食堂の模造大理石の柱はどうです』

『あれは光り過ぎてハレーションを起こさないかねえ』

『井上組のセットには今、黒光りのするいい大黒柱が使われていますよ』

監督とアシスタントたちの問答を聞いているうち、オレは、その黒光りのする大黒柱に食欲をそそられた。

『その大黒柱のサイズはどのくらい? マリ子を裸のままで抱かせてみたいんだ』

セット内はシーンとして、オレたちの会話を聞いていた。裸のまま抱かせると聞いてマリ子は、赤くなって一瞬目を伏せた。助監督たちがあのサイズならだいじょうぶと請け合ったので、オレは、チーフの朝日という青年を井上監督の所へ折衝に行かせた。朝日チーフ・アシスタントはすぐに戻って来た。井上監督のOKを取ったうえ、井上組も仕事を休んで見物すると言う。オレたちは、ピカピカのツルツルの池広マリ子を先頭に立たせ、長い撮影所の廊下を歩いて行った。ユラリユラリと揺れるたくましいお臀に、ときどきアシスタントたちが、ピシッ、ピシッと鞭をくれた。

『オイ、肌に傷をつけちゃいかんぞ』

オレのほうがハラハラしてしまった。



---------- <柱抱きの針責め> ----------


井上組の連中はヤクザ映画をとっていたまっ最中なので、角刈り頭に着流しスタイル。印ばんてんスタイル、なかには入れ墨を見せた上半身裸などというスゴいのが2、30人そろって迎え入れ、あたりには、たちまち棲愴の気がたちこめた。さすがのマリ子も、ヒエッというような、声にならない悲鳴をさるぐつわの下でくぐもらせ、蒼白となり、ホールド・アップの腕をおろして股間を押えたまま立ちすくんでしまったほどだ。その臀で、背で、ピシッ。ピシッ。ピシッ。鞭が鳴っていた。大黒柱は、みがき上げられて、みごとに輝いていた。黒曜石か黒メノウのようだ。オレはその柱の、床から一メートル足らずのところで、マリ子にまっさかさまになって柱を抱くように命じた。

奇妙な刑罰にとまどって目をパチクリしながらマリ子は、言われたとおりにした。もちろん柱以外、からだに接触するものはなく、足を上に、頭を下にして、からだが宙に浮くのだから、女一人ではできない。太ももや肩を押え、乳ぶさや足をつかんで、アシスタントどもが手伝った。それがスベスベだから、お互いにひどくやりにくそうだ。
ともかく、マリ子のからだは、柱をさかさに抱いて宙にとまった。逆セミである。さかさ吊りと同じで、ほうっておくと血が頭に逆流して来るので、頭をできるだけあげさせ、足を開いて太ももで柱をはさみつけさせた。腕だけでは長時間とまっていられない。豊かな臀を割って肛門をせいいっぱい見せて柱を抱いている情けない姿のまま、さるぐつわが、はずされて、撮影にはいった。さるぐつわをはずしたのは、尋問に答えるセリフが多少あるうえに、うめき声や悲鳴などをリアルに録音するためだ。

カチンコが鳴った。オレは、マリ子がすっかり逆上して、セリフを全部忘れているのではないか、と心配していたが、やっぱりマリ子はしっかりしていた。こんなすさまじい姿をさらして、しかもプツリッ、プツリッと、白くてムッチリしたお臀に針を一本ずつ突き刺されながら、泣き声のセリフはテニヲハまで正確だった。女の皮膚は薄いから血が出て来るのはしかたがない。その代わり、皮下脂肪が厚いから、ことに太り肉のマリ子のからだなら、相当深く針を刺しても、後日にまで影響することはあるまいと、オレは見た。

だから、この『人間針供養』を途中でやめる気はなかった。さかさまだから、頭には次第に血がウッ積して来る。女の腕では、そんなに長い間からだをささえていられない。下半身の貧血症状が進行するにつれて、太ももの筋肉はゆるんで来る。昆虫のセミは木から落ちないが、人間のセミはいつか落ちる。ましてメスゼミ、さかさゼミ……。
肛門の括約筋を目で測っていれば、落ちる前にはだいたいわかる。それまでマリ子を責めながら、ゆっくりと針を刺して行き、あぶなくなって来たら、柱の下に水槽を用意する手はずになっていた。

水中に落ちれば、針がいくら臀に刺さっていても、それ以上深く突き刺さる事はない。所が、マリ子のやつは驚くほどガンバるのだ。フマジメな女優なら、いいかげんで自分から落ちて来るのだろうが、彼女は、そんなことはしない。気力と体力のギリギリまでガンバってしまう。セット内に凄絶の空気がみなぎり、皆、シーンとしてしまった。むき出しのお臀を針坊主として提供しているマリ子一人の呼吸と絶叫だけが荒々しく、人々は次第に興奮して来た。
針が刺さる瞬間、彼女は大きなからだをギュウッと縮めて、恐怖と苦痛に耐える。ギュウ、ッギュウッと身を縮めているので、今にほんとうにセミみたいに小さく黒く凝り固まってしまうのではないかと思うほどだった。
見物人の中にざわざわと小さなざわめきが巻き起こった。二階堂ユリ子がついに失神してしまったらしい。

もう拷問が始まってから一時間ぐらいたってしまった。熟しきった腐瀾寸前のトマトのように、マリ子の顔はまっかにはれふくだみ、のどがはり裂けそうなほどに顔をあげて、ギャオーッ、ギャオーッ、と、わけのわからぬ悲鳴をあげ、あぶら汗でぬれ輝くからだを、全身が腸になってしまったように捻転させていた。お臀はもはや針ネズミのようだ。命に別条はあるまいが、全く意地っぱりだ。あきれたものだ。

脇役たちも、とうに尋問のセリフが尽きてしまい、パントマイムのように黙々と、目ばかり、ギラギラさせて、針供養を続けるよりしかたなくなっていた。オレは、とうとう拷問中止のサインを出した。用意した水槽はなんの役にもたたなかった。

人間針供養】が、終わったとたんに、バタバタと失神する者が続出した。



---------- <トゲつき細スト> ----------


『先生ったらほんとうにしどいわ。マリ子お姉様にあんな残酷な役をさせるんですもの』

寝ているマリ子のベッドの前で、二階堂ユリ子は口をとがらせて、しきりにオレにくってかかった。オレは、この清純スターのかわいい抗議には閉口して、頭をかきながらニヤニヤするよりしようがなかった。

『もういいのよユリちゃん済んでしまったことでしょ』

臀が痛むので、ベッドの中にうつ伏せに寝たままマリ子は、まだかなりはれぼったい目をあげて、ユリ子をたしなめた。目の回りに黒いくまがくっきり浮かんで、さすがにゲッソリと年をとったようだ。

『もう一眠りなさるといいわ。ユリ子が子守り歌うたってあげましょうか』

冷蔵庫で冷やしておいたタオルを氷マクラの上に置きマリ子の目をその上にのせさせて、ユリ子は耳元に口をあてて、うっとりするような奇麗な小声で、どこかいなかの、ひなびた子守歌をうたって聞かせていた。



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チャイムが鳴ったので、出てみると、チーフ助監督の朝日青年が、大きなくだものカゴをさげて立っていた。

『持って来たかい』

オレが聞くと、朝日青年はニヤリと笑って、かってに上がって来た。マリ子はうつ伏せのままスヤスヤと眠っていた。ユリ子は、まくらもとにすわって、まだ小声で子守歌をハミングしながら、マリ子の首筋のあたりを指先で優しくそっとなでていた。

『ユリ子はもう帰りなさい』

朝日はきびしい顔になって、ユリ子に言った。ユリ子は堅くなってコックリし、不安そうにオレと朝日の顔を等分にうかがった。

『お姉様をもうこれ以上いじめないでネッ』

祈るようなひたむきなまなぎしでオレたちをみつめ、両手を合わせるようにして、それからクルリと後ろを振り向いて、バタバタと部屋を出で行った。朝日は、無遠慮に毛布をまくって、赤く痛々しくはれ上がったマリ子の臀を見ていたが、親指の腹であちこち押えつけ始めた。

『痛い、痛い。いやだわ、朝日さん、何するのよウ』

マリ子は、一ぺんに目をさまして悲鳴をあげ、肉づきのいい裸の脚をバタバタさせた。うれた女の肌の甘いにおいといっしょに、薬くさいにおいがツンと鼻に来た。

『今は痛むかもしれないけど、こんな傷なんてたいしたことはない。一晩眠れば、直っちゃうな』

眉毛一本動かさずに言ってのけた。映画の助監督なんて、これぐらい非情じゃないと勤まらんのだろう。朝日は、もう一方の手にささげていたブリーフ・ケースから、まっかな網ストッキングスを取り出した。

『プレゼントだ、はいてごらん』

『そう。きょうは優しいのね』

マリ子が毛布をかぶって、また寝ようとすると、朝日は、きびしい顔になって、その手を押えつけた。

『今すぐはくんだ。それもそのままで』

『いやだわ、お臀にけがしてるんですもの。裸のままよ』

『だから、いいんだ。すぐはけ』

『なんて人でしょう。監督さんよりいばってるんだから、若造のくせに』

マリ子はかなりムッとしていたが、しいてさからうことでもないと思ったのか、そろそろとベッドから降りて、向こう向きのまま、まっかな網ストッキングスに、まっ白な太った足を入れ始め、とたんに悲鳴をあげた。

『痛アーい。なによ、これ。針入りのストッキングスだわ』

まさにそれは、太ももの内側にだけ針が突き刺さるように織ってある網ストッキングスだった。朝日がとびかかってマリ子の両腕を後ろ手に締め上げながら押えつけた。オレは、ゆっくり前に回り、あばれないようにマリ子の急所を指でじゅうぶんえぐり回してから、網ストッキングスを一つずつはかせた。

『また、あなたのアイデアね。全く、Tの前でぶつからなきゃよかった。あの時、いやーな予感がしたと思ったわ』

ムダ口をたたき、恨めしげにオレをじっとみていたが、マリ子はさからわず、案外すなおに片足ずつあげて、ストッキングスをはかされた。さすがに内ももにまで来て、裏側に縫い込んだ針が太ったもも肉にこすれては突き刺さるたびに、ウッ、ウッ、とうめいて、身をそり返し、かすかにのどを鳴らしていた。白い、肉づきのいい全裸にまっかな網ストッキングスは、目を奪うほど美しく、新鮮だった。

『またこれで柱をさかさに抱くの』  マリ子は自嘲気味に笑って、オレたちを見上げた。

『そのまま歩いてごらん』

歩くたびに内ももの筋肉が怒張するから、針がいっそう肉に突き刺さり、こすれる。



---------- <ネズミくわえ> ----------


すなおに両手を頭上にあげて歩き出したマリ子は5、6ぽ歩くと、音をあげて立ち止まり、ポロポロ大粒の涙を頬にこぼした。

『痛いわ。もう、きょうは勘忍してちょうだい。2、3日休ませていただけたら、また、どんな拷問でもつつしんでお受けします』

冗談めかした言い方だが、表情は真剣だった。やはり、20年女優をやっているくらいだから、マゾッ気は相当のものだ。オレがにらんだとおりだった。

『いいだろう、と言いたいが、もう一つあるんだ』

『まだ責め道具があるの』

不安そうなマリ子の首をつかんで前へ引きずり倒し、バッタリ四つんばいにさせたとたん。朝日が、肉づきのいい背中を、スエードのスリッパでぐっと踏みしめた。

『オイ、オイ。オレにやらせる気か』

オレは少なからずあわてた。なにしろ、カバンの中に何があるかよく知っているのだから、残り物に福、と悦に入っているわけにはいかない。朝日が苦笑しながら交替してくれたので、オレは、ホームスパン風のじょうぶそうな厚布でできた真新しいスリッパで、マリ子のツルツルすべる背中のまん中を、ギュッと踏みつけた。

このスリッパは、ついさっき二階堂ユリ子が、『先生にプレゼントよ』と持って来てくれたものだ。甲おおいのまん中に、流行の大きな星のマークがついている。手芸のうまいユリ子のお手製らしく、彼女がいつもしているオレンジ・ブロッサム(香水)の甘いにおいがこびりついて漂っていた。

ユリ子はきっと、オレのごきげんを取り結んで、マリ子に優しくしてもらおうと思ったのだろう。そのスリッパの最初の役割は、マリ子の背肉に食い込んで、彼女を四つんばいから立てないようにすることだから皮肉なものだ。
朝日はマリ子の白い絹の手袋をしてからカバンの中から黒い物をつまみ出し、マリ子の顔前に投げ捨てた。
マリ子の顔色が変わった。逃げようとしてオレの足の下で、強い力で丸い背中が動くので、オレも力をこめた。

『口でくわえろ』、朝日が、カバンでマリ子の臀をたたいた。

『イッ、痛うーッ。イヤーン。これ、ネズミの死骸じゃないの』

死骸も死骸、カラカラにひからびて、せんべいのように薄くなったネズミの干物だが、ミイラになってもこれだけ大きいのだから、生きている時は余程、大物だったに違いない。

『イヤーン、勘忍して。こんなのくわえられないわ』

マリ子は必死で、4つんばいのまま、右に左に逃げようとしたが、カバンを捨てた朝日が、うしろから網ストッキングスの太ももをきびしく抱きしめたので、『グッ、グッ、グッ、ツウーッ』、悲鳴と共に思わず口を出して、ネズミの死骸をくわえてしまった。すぐ吐き出せないように朝日は、マリ子の口もとを監視しながら手を差し入れて太ももを強弱自在に押えていた。マリ子は観念して、ネズミくわえのまま、キッと顔をあげた。涙がぼうだと頬を流れ落ちた。

『今度の映画には、ネズミくわえのシーンがあるから、今のうちに少し慣れさせておいてやろうと思ってな』

オレはやっと、踏んづけていた足をのけたが、マリ子もいまさら逃げ出さず、四つんばいのまま顔を上げて、許しのサインが出るまで、おとしなくしている。壁にかかっていた20pのステンレスのものさしを鞭にして、朝日がマリ子の臀をたたきたたき、とけいの針の方向にからだをゆっくりと回させた。

はれ上がっている臀をたたかれるのだから、ウッ、ウッとうめきながら、マリ子は身をよじって、カチンカチンのネズミの午物をギリギリとかみしめた。受け口気味の、マグロのように肉厚の下唇がぬれて、タラタラとよだれをこぼした。

人の気配がしたので、オレはベッド・ルームの入り口を見やった。空色のカーテンの陰にかくれて、二階堂ユリ子がこっちを伺っていた。別の戸口から脱け出て、ユリ子の後ろへ回ると、ガタガタ、ガタがた震えながら、懸命にのぞいている。後ろから肩を抱きしめてやると、オレたち3人がいっせいに飛び上がるほどのものすごい悲鳴をあげた。見ると、蒼白になって口もきけないぐらいに震えていた。

『ご、ごめんなさい。セ、先生。カ、帰ろうとしたら、お姉様の悲鳴が聞こえたので、つい』

部屋の中へ連れて行くと、さすがにマリ子は、ユリ子に一部始終を見られてしまっていたことを知って、がっくり肩を落とし、目を伏せて、いたたまらなそうにしていた。大きな臀まですぼめて、小さくなっている。ユリ子はユリ子で、これまた申し訳なさそうにコチンコチンだ。朝日ひとりが喜んでハッスルし、ひときわ激しくマリ子を泣かせていた。



---------- <唐丸籠の中の女> ----------


映画ファンなどというものは妙なくせがあるもので、今まで普通にやっていたスターが突然、激しい責め場を見せたりすると、ワッと人気がわく。

そこをすかさず、2の矢、3の矢を放つと良いのだが、そのスターが妙に、良心的になって、2の矢を恐れたり、嫌がったりすると、忽ち人気はしぼんでしまう…続けざまに、責められていても、そのうち別のスターが斬り込んで来るから、そういつまでも人気が続くものでなし、体も弱って来るし、引き時の、タイミングも難しい…池広マリ子は、さすがに長年芸能界を泳ぎ回って来ているから、そういう人気の波の掴み方、盛り上げ方は巧妙をきわめていた。

彼女は、問矢監督にうまく利用されてしまったフリをしていたが、案外、オレや問矢監督を逆に利用していたのではないかと、あとになってからは思われてしかたがなかった。そう考え始めると、最初にTの前でぶつかられた時だって、どう考えても、新聞配達などいなかったような気がする。ことによると彼女は、何かのツテで最初からオレを知っていて、問矢監督の構想を打ち明けられてから、これで久しぶりに大人気をわき立たせてやろうと思って、わぎとオレにぶつかったのかもしれない。

オレは、めんどうくさいことはセンサクしないたちなので、どうでもいいやと思っているが、今になると、どうも、そういう気がしてしかたがないのだ。問矢監督の二の矢は、やっぱり時代劇で、それも剣豪物だった。オレのコンテの中から『鉄砲鍛冶』というのと、『古釘木馬』というのを、今度は使いたい、また撮影所のほうへご足労願いたい、と彼は電話を掛けて来た。

行ってみると、まだセットの準備もできてない内から、マリ子はもう囚人扱いで、撮影所の門のすぐわきの広場に、唐丸籠に入れられて、きびしい後ろ手本縄で正座したまま、アーチスト、社員はもとより、一般の見学者にまで、全く自由にさらしものにされていた。

門のすぐわきだから、通行人、近所の子供や主婦、出前の店員たちもひょいとはいってはながめて行く。恥ずかしがって下を向くと、木片がおいてあって、誰でもカゴのすきまからそれを突っ込んで、あぶらののりきった丸いアゴを下からぐいと突き上げることを許されていた。

マリ子は観念の表情で、涙ぐみながら顔をあげて、縛られたからだをそらせ、存分に見ていただいている。それも、白と薄い桜色の十二単衣に、若草色に金朱の細い斜め格子のはいった帯をはなやかに締め、紫地にフジの花模様の上品なうちかけを着た上から、黒白のだんだら縄で本格的に胸菱縄で縛られ、たびは脱がせて素足に足指縄までかかっている。

頭には白い大きなクシこうがいが四本というあでやかな大奥中老の姿で、唐丸籠にはいっていた。
オレを認めると、彼女は耳たぶまで赤くして、例の肉づきのいい下唇をキッとかみ、恨めしそうにオレをにらんだ。

肉づきがいいので、猪首と言いたいぐらいに首が太く、肩が盛り上がっていた。後ろ手に吊り上げた手首縄が、その白いのどもとに三筋も食い入っていて、かなり苦しそうだ。だんだら縄で締め付けられているのどに、ブヨが2、3匹とまって、柔らかな皮膚をかんで血を吸っているが、うっ血しているので、本人にはかゆくないらしい。恥ずかしそうにオレを見上げ、目に涙の玉を宿しながら、口もとにはかすかな微笑を漂わせていた。

セットは、その大奥中老が獄に下され、恋人の剣豪の行くえをきびしく責め問われるお白洲の場だ。
この前と同じように、撮影所員にはこのお白洲は公開である。唐丸籠のままマリ子が運ばれて来た。一般見学者を締め出したところで、誰かがいたずらしたと見えて、彼女、唐丸籠の中で、大きなネズミの干物を、くわえさせられている…この前のではなく、新しいやつだ。



---------- <十二単衣> ----------


お白洲にすわらされて、尋問が始まった。手足の縄に鞭をはさんで回されると、首縄までが締まって蒼白になり、目を白黒させて苦しむ。厳しい、責めが続く、そうして、いよいよ後ろ手縄が解かれ、お白洲の玉じゃりの上に、素足のまま立たされた。打掛けが、脱がされ、帯がほどかれ、バラの花びらが、むしり取られるように、十二単衣が、次々に脱がされて行った。

十二単衣の下は肌じゅばんに湯文字一つが常識だろうが、彼女は、そんな格好はしていない。オレが朝、マンションを出る時入れ知恵して、男物の真新しい越中ふんどしを、彼女の豊満な腰に締めさせておいた。
彼女は、素っ裸のうえに越中ふんどし一本で、十二単衣を着ていたのだ。さらしの現場にいた一般見学者がもしそれを知っていたら、ああはおとなしく帰らなかったろう。

煌びやかな十二単衣姿から、瞬く間にふんどし一本の裸姿で、白洲のまん中に、悪びれずに立つマリ子を見て、回りに集まっていた連中がどよめいた。彼女は、唐丸籠の中から始めてオレを見た時同様、恥ずかしそうにオレのほうを見ながら、目にいっぱい涙をたたえ、口もとには微笑をこもらせていた。自分の、哀れでぶざまで、しかもさっそうたる裸姿に、彼女自身、気持ちの整理がつきかねているのだ。

しかし、鉄砲鍛冶の拷問は生やさしいものではない。ふんどし一本の彼女は、たちまち、ひざが肩に食い込む。絵に見るようなすさまじいエビ責め姿に縛り上げられ、そのまま、今度は両腕を背中へ斜めに渡されて、エビ鉄砲になった。

『ウーン。ウーン。ウーン。』

さるぐつわは、かまされていないので、彼女の肉感的な口もとから、たちまちうなり声がもれ、豊麗な白いからだはみるみる紅潮して、血の吹き出るような汗を流し始めた。



---------- <かなとこ> ----------


そのからだを金床の上に載せて、周囲からコークスの火であぶり、熔鉱炉の銑鉄のように赤熟した肉塊を、大きな鉄のツチでたたきのめすのだ。

うつ伏せにされて、背中や肩を存分にたたかれ、あおむけにされて腹や太ももを鍛冶された。エビ鉄砲だから、どんなムリな姿勢でも、からだを固定することができる。開いた臀を上に顔と肩とすねを下に、まるで人間テトラポットみたいな格好にされて、存分に豊かな、朱を注いだ嬰肉を鍛冶されているうちに、ふんどしのひもが切れ、コークスの上に落ちて、一ぺんに燃えてしまった。

彼女は臀を持ち上げてたたかれ、熱い金床に顔をくっつけたまま、急に悲鳴をとめて、身がくずれた。失神したようである。数日静養させて、今度は『古釘木馬』にまたがらせた。これは、あらかじめマリ子を全裸にして片足を釣り上げ、両の粘膜部のサイズとインターバル(間隔)を正確に測っておくのだ。木馬の背中に、そのインターバルに応じて二本の赤さびて曲がった古クギを逆に埋めておく。この作業は、シロウトには一見むずかしそうだが、大工仕事百般に通じている大道具方のベテランの手にかかれば、なんということもない。

あらかじめ木片に古クギを貫き通しておき、それを裏返しにして、木馬の背を木片の大きさだけえぐって、代わりに木片を埋めればいいわけだ。大道具のベテランになると、木馬の穴のほうをほんのわずか小さめに、木片とピッタリ同じ形にして、木ヅチで入念にたたき込んで、木目以外は、最初から木馬の一部だったとしか思えないくらいピッタリはめ込んでしまう。

もっとも、くの字なりに折れている古クギの角度と、マリ子の粘膜部を責めるための最大効率を考えて決めなければならないので、三つほど試作品を作り、それぞれに、全裸のマリ子をまたがらせて、しばらく試供してみた。このあたりでマリ子はもう、豊かな胸を波打たせて苦悶していた。絶頂感の時のような、かなり扇情的なあえぎと悲鳴をくり返した。それをテープにとっておいて、あとで比較してみると、どの木馬が本命かは、すぐに決まった。

試作、試験の間じゅう、裸で後ろ手に縛られて大道具の部屋にひざまずかされているマリ子は、大評判で、皆に、可愛い〜可愛い〜と好評だった。本番の時は皆に見られながら、お白洲に引き出され、全裸になって本命の木馬にまたがるのだ。太ったからだの重みで内ももが切れ上がり、二本の古クギは遠慮なく前後から粘膜を裂いて、奥の奥まで突き刺さった。両足が木馬の腹の下で一本合わせに縛られ、おもしが吊り下げられた。普通の木馬責めより何倍もの血が流れた。

『ギャアーッ。ギャワッ。ギヤワーッ。』

マリ子の絶叫も、食い入る木馬の背の迫力も充分捕えられたが、粘膜部の写ったフィルムはラッシュの後で全部切り捨ててしまわなければならない。映画で見ていると、どうしても迫力の出方が違うのは、やむをえない…決死の覚悟で全裸となって映画史上前例のない粘膜拷問を受けたマリ子には全く気の毒な結果となってしまった



---------- <古釘木馬のあと> ----------


でき上がりの迫力こそ欠けたが、マリ子の古釘木馬を甘受したりりしさと優しさは、話題を盛り上げ、スタジオ内、映画ファン層から一般社会人の間にまで、久々に彼女の人気を一気に膨張させた。

古釘木馬』の拷問シーンの撮影は、例によって彼女の失神によって終了し、そのまま撮影所付属の病院に入院して、裂けた股間の治療を受けていたが、人気の高まりはファン・レターや差し入れの見舞い品によってピンとわかるから、彼女はもうじっとしていられないようだった。

どうやら彼女は、長いトップ・スター生活の最後の一花をここで大きく咲かせてから、人並みの結婚と脇役への生活にはいろうと計算していたらしい。二階堂ユリ子を連れて見舞いに行くと、ユリ子など見向きもしないで、

『ねえ、先生。お中老姿で唐丸篭にはいってさらしものにされた時は、好評だった?』

『うん、そりゃあスゴいものだった』

『今、もっと大胆な姿でさらしものになったら、あの時の百倍くらい人が集まるかしら』

『百倍どころか、千倍、万倍だね』

『先生、何かいい構図ない? 考えといて。まだケガが直ってないから、足を閉じたままの拷問姿よ。名案さえあれば、こんな病院、あたしなら、いつでも退院できるの』

そりゃそうだろう、映画会社では大スターより偉い人間は、社長一人しかいない。

『考えるまでもなく、名案ならまだまだあるさ』

ハラハラしながら悲しげな表情でオレたちの会話を聞いていたユリ子は、とうとうたまりかねて、シクシク泣き出してしまった。そのユリ子をハッタとにらみつけてマリ子は言った。

『泣くんじゃないの、ユリちゃん。女優って、これくらい醜くて、しぶといものなのよ。そこまでやれる自信がないのなら、お嬢さん役がつとまらなくなった時に、結婚して引退しなさい』

しかられてユリ子が本格的にワアッと泣き出したので、オレは、彼女をあやしあやし帰って来た。

オレの“名案”は言わずじまいだったが、翌日、マリ子から電話で呼び出されて撮影所へ行くと、約束どおり彼女はちゃんと退院していた。頭はまだ坊主頭、顔は蒼白で、棲惨な目つきをしている。歩くのもソロリソロリで痛々しいが気持ちだけは、ピィンと張り詰めているのがわかった。チャンスをつかんだ女優独特の気力がみなぎっていた。

『お願いします。あたしもこれが最後のチャンスだと思ってガンバリますから』

殊勝な顔で、自分のヒモに丁寧に頭を下げるのだから、見直したね。



---------- <立枷たちかせ> ----------


オレは、撮影所長と相談して『立枷』の図面を引いて、道具方に渡した。一見、奇抜な拷具だが、むずかしいものじゃない。すぐできて来た。

これは『老残遊記』という古い中国の小説で、昔、さし絵を見ていたもので、オレの創作じゃない。できた部品は、例によって門のわきのあき地に運ばせた。新聞、雑誌の芸能記者がまっ先に集まって来たので、次の責め映画に備えての特訓だと言ったら、皆たまげて、パチパチ、青い顔をしているマリ子の写真をとっていた。

立枷”というのは、首カセの四すみとまん中に細い柱がついているだけのものだ。

マリ子は、白い絹のワンピース水着一つの裸になった。ヤクザの五分刈り頭みたいなのを見かねて、ユリ子がカツラを持って来たが、マリ子はきびしい表情で断わってしまった。

『ここではうんと醜い姿をさらすのよ。あたしがカセにかかったら、ユリちゃんも、針金のカギであたしの鼻の穴を引っ掛けて引っ張り回していいことよ』

ユリ子はびっくりし、ベソをかいて逃げて行った。

ワンピース水着と言っても、ヘソの回りの大きな銀のリング一つで、上と下が引っ張られて連結しているうえに、ビキニ・パンティも両わきがリングだけで止めてある。事実上、全裸に近い姿だ。絹の純白地に、黒同然の濃紺(ミッドナイト・ブルーと言うのだそうだ)の大小の水玉模様が散らしてある。リングで締めつけても、太ったおなかが、妊娠二ヵ月ぐらいにコンモリとふくらんでいる。

その水着姿のままマリ子は、首カセに首をはさまれた。五本の柱は、マリ子の身長より30pも高くしてあるから、たまらない。たちまち板枷の絞首刑だ。首が締まったとたんに顔面まっかになり、目を白黒させ、ヨダレをたらし、鼻汁が流れ、まなじりは釣り上がって、目のふちが切れて血がにじんで来た。道具方の一人が急いで、彼女のウエストを鎖でギリギリと中柱に縛りつけた。中柱は、首カセの穴の真後ろについている。

そこへ背筋から臀の割れ目、両足の合わせ目をぴったりと当てはめて、足の下にレンガを4、5枚重ね、つま先立たせるのだ。4すみに、4本の柱があるのだから、両腕はどういう格好に縛ってもいい。最初は前手に2本の柱を外側から抱きかかえさせ、ウエストの前で手首を交差させて縛った。

用意ができたところでウエストの鎖はほどいて、彼女の口にくわえさせた。首カセとつま先下のレンガだけでからだをささえて、さらしたほうが苦痛効果が高いからだ



---------- <吊り鐘責め> ----------


一週間ほど体位をいろいろに変えながら、立ちカセで苦しめているうちに、次の脚本も決まったので、彼女はまた強制的に入院させられ、徹底的に治療させられた。今度出て来た時は、色はすき通るように白かったが、元来の堂々たるからだつきに戻っていた。撮影所長がオレに言った。

『今度は決定叛のつもりでアイデアを出してくださいよ、半年ぐらい再起不能に陥ってもかまわないと、彼女も言ってますから』

オレは立ちカセにかかっていた彼女のコンモリした腹部のふくらみが目先にちらついてしかたがない。立ちカセにかけて烈日の下にさらすと、体は日に日に憔悴していくのに、おなかのふくらみだけはあまり落ちなかった。と言って、はらみ腹でもない。きっと、そういう体質なのだろう。再起不能覚悟の責めとなると、全撮影の最後に持って来なければならない。オレも満を持してマンションにこもりきりで、コンテばかり書いていた。

マリ子は、体があくと病院へ行ってしまうが、ユリ子がときどきマンションヘ通って来て、オレの身の回りの世話をしてくれた。マリ子に頼まれたのか、自発的か聞くのもめんどうなので、オレはほうっておいた。ときどきコンテをのぞき込んで顔をしかめている。

『心配だろう』、と聞くと、クスリと笑う。小スズメみたいにかわいい子だ。

『先生はどうしてそんなものばかりお書きになるの』







『オレの業さ』

彼女にわかったかな。

最後に俺が考案したのは釣り鐘責めだ。これでよし、俺は最後のコンテを仕上げ撮影所へ行った。

『今度は最後だ。一般見学者にも非公式に公開しましょう』

非公式公開とは変な言葉だが要するに予め、拷問公開を発表したりせず、偶然、その日のセット見学者には公開してしまうやり方で、最初に書いたエキストラ(臨時)の三助と同じで、素人をクロウトと錯覚して公開しちゃうのだから、例えマリ子が素っ裸をご開帳したとしても、公然ワイセツ物陳列罪にはならない。公然とやったという証拠さえなければ良いのだ。

マリ子は観念して堂々と引かれて来た。
お寺の境内のセットの中で丸裸にむかれたマリ子は、まず水責めにかけられ、たっぷりと水を飲まされた。

地腹が盛り上がっているうえに、入院して寝てばかりいたので、2回りも豊かに腹部に脂肪がのっている。




裸にして立たせると、ヘソの回りの肉が、円盤型にコンモリ盛り上がっていた。

ハシゴに仰臥させて、縛りつけ、口に大ジョウゴをくわえさせて、水をガブガブ飲ませた。嫌がっても、どうにもならない…マリ子も観念しているのか?飲めるだけは、進んで飲んだ。それからは、目がトロンとしてしまい、ノドまで水があふれ、一滴流し込むのに何分も待たなければならない始末。肛門の括約筋がゆるんで、ダラダラと水を、たれ流し、次第にそれが清水のように澄みきって、半分仮死状態が続いた。縄をほどいても逃げもせず、体は芯まで冷えきってしまった。

頃合いは良し、まず医者が薬品を注射して化学的に括約筋を締め付けた。妊娠10ヶ月ぐらいの大きな腹を、せり出して両手足は後ろにまとめて縛り上げられた。裸体が扇形となって鐘楼に吊り下げられた。上体を前に倒し、ふくれ上がるだけふくれ上がった置き物のタヌキのように、まん丸な腹を後ろへそらせ気味にして吊り下げた。

胃の中の水が逆流して、マリ子は苦しそうに、肉感的な唇をゆがめて吐いた。しかし、これだけパンパンに腹がふくらんでしまうと、逆流する水はたかが知れている。吐くだけ吐くと、首を下にして、斜めさかさ吊り気味に駿河吊りとなって、ゆっくりに宙に飜転している彼女は、口を苦しそうに半ば開き、あとはポタポタとしずくのように水をしたたらせているだけだ。針一本で破裂しそうな薄い皮膚がピインと張りきったタヌキ腹は、いささかも小さくなっていない。

そこへ除夜のようにしゅ木を当て108回、腹の鐘を突こうと言う訳だ。しゅ木というのは力いっぱい叩き付けるものではない。軽く当たっても『グォォォォォーンッ』と、余韻を引いて響き渡るのが良い鐘だ。マリ子の腹の鐘も一度で破裂させるのが目的ではないから軽く当てるようにしたが、それでも扇型に吊り下がった体は、大きく宙に揺れ、口と鼻と肛門と、どういう訳か耳腔からまで噴水のように水を、シューッと吐いた。吐いて止まり、ダラダラ、ポタポタ…

そこでまたしゅ木を当てると、シューッ。

シューッ。ダラダラ。ポタポタ。シューッ。

108回も、もたなかったが、あれだけ大きな腹を、縮めるまでには、皆、かなり堪能した。

足が開いて、カエルのようにぶざまな後ろ四つ手の姿で宙におどるので、キュウッとしまっている肛門が一瞬開いて、シューッと水を吹くさまが、あらゆる角度かち楽しめた。

池広マリ子、人間噴水となる

翌日、スポーツ紙の芸能面はそういう記事と彼女の上半身全裸大写しの写真を載せていたが、公式公開刑ではなかったので、他紙は全然知らなかった。俺は間もなく、二階堂ユリ子が女優を止めて地道なサラリーマンと結婚したことを知った。問矢監督が密かに教えてくれた所によると、ユリ子は、マリ子の若き日の隠し子だったそうだ。ユリ子が、そのサラリーマンと愛し合っていることを知ったマリ子は数々の、ぶざまな姿をユリ子に見せて、彼女に女優への道をキッパリと、諦めさせたのだ。

ユリ子の結婚披露宴の招待状は、マリ子にも来ていたが、オレはその日行かせてやらず、一日、マリ子を人間噴水にして責めていた。美しき白き鐘に刻は、あやまたず鳴る。

これで良いのだ…色々な人生が、この世に縁あるさ。




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