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残酷 ショートショート
うらめしや〜@


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『うらめしやー』

不気味な声に目をさますと、枕もとに、まるはだかの美しい女性が立っていた。

『あなたは誰なの』

『うらめしや−っていったでしょ。私ユーレイよ』

この答には、さすがのわたしも驚いた。

『ねえ、人違いじゃないの。わたしはユーレイなんかに、でられるおぼえはないわ』

『ウウン。誰でもよかったの、若くて美しければね。それに私、ひと目であなたが好きになっちゃったわ。ここに居さしてよ』

『冗談じゃない。わたしレズじゃないわ』



抗議しても、ユーレイでは簡単に追い払えないし、わたしを若く美しいと認めたのが、当然ながら気に入り、よく見直すと、首のまわりに、赤い細い線がついている。

『その赤いすじは何なの?』

『これはね、ギロチンでスッパリやられちゃったあとよ。うらめしやー』

『じゃあ、あなたは……』

『思いだした? 最近話題の女死刑囚よ』

『とうとう死刑をうけたのね』

『そう。たった今、すんだところよ』

『お気の毒ね。痛かったでしょう?』

『同情してくれてありがとう。死刑そのものはアッと云う間で、痛くもかゆくもなかったの。もの足りないくらいよ。でも、この世にやりたいことが沢山あるのに、志なかばで首を刎ねられた、その思いがのこってユーレイになったのよ。うらめしやー』

『やりのこしたって、まだ殺したりないの?……あらッ。まさかあなた、それを、わたしに、やれっていうつもりじゃあないんでしょうね』

『ご名答! さすがだわ』

ユーレイの話によれば、彼女は生前、全ての若く美しい女性に反感をもっていた。これは当然だが、いっそ消えてくれと願った。ここまでは異常とは云ない。しかし、それがエスカレートし、彼女はついに実行してしまったのだ。

だが、僅か8人を殺っただけで捕われ、あえなくもギロチンの錆と消えた次第。

『目標は26人だったのよ。これでは成仏できないので、あなたに協力してもらいたいの。ねえ、やって?』

『その気持、よくわかるわ。でも、具体的にどうすればよいのよ』

『私があなたにのりうつるの。それで、あなたは超人的な力をもてるわ。じゃあ、いいわね。いくわよ』

返事もまたず、ユーレイの姿は消え、とたんに何か異常な力がついたよう。

夜明けをまって、獄門に梟けられた女囚の生首を見に行った。やはり彼女だ。両脚をひろげて逆吊りに晒された胴体の、おヘソの下のホクロにも、たしかな見覚えがある。

『いいわ。あなたの意志をうけつぐわよ』

生首にむかって、つぶやいた。心なしか、獄門首がほほえみ、こんな声が聞こえた。

『しっかりね。うらめしやー』

彼女、喜んでるのか羨んでいるのか知らないけれど、その時から私の性質は変したことだけは確かだった。

今までも、私より少しでも綺麗だと思う女には、反感を持っていたけれど、それでも硫酸を、ぶっかけてやりたい程度にしか思わなかったのに、それが急に、そんな生ぬるい事ではなく、なぶり殺しにしてやりたくて、ウズウズするようになっちゃった〜。

『そう。それでなくっちゃあ。うらめしや』 心の中のユーレイが、ささやく。

帰り途で銀行の車が窓を開けたまま停車しているのに、ぶつかった。何気なく中をのぞくと、ジュラルミン製の大トランクがおいてある。全く無意識に手が出て、軽々と持ち上がった。気がつくと、お家でお礼を数えていた。全額で三億円あった。

その日の夕刊に現金トランク謎の蒸発″だなんて出てたけど、誰も知らなかったらしい。やはりユーレイの力だろうか。とにかく三億円あれば、美女誘拐、なぶり殺し資金にバイトする必要はないってわけ。

そんな訳で、“お金持ち“になった私が、楽々と17人の美女を誘拐して、鯵殺死体製造に専念したいきさつは、新聞やテレビで、ことこまかに報道されたから省略するが、とにかく、17人の女は総て選りぬきの美女ばかりだし、五体が満足に揃った死体は一つもなかったのだから、世の中の女は、美しく生まれつかなかったことを感謝したり、醜くなる化粧法だなんてのが流行したのも当然。

わたしは、そんな、若い女たちのウロタエぶりがおかしく、ますますハッスルしていたのに、ちょっとした油断から正体がバレたらしく、いい気分でお風呂に入ってる時に踏みこまれて、まるハダカのままで逮捕された。

もちろん、日頃の超人的な力を信じて、暴れてやったけれど、どういうわけか、ちっとも力が出なく、ごく簡単に縛られちゃった。ユーレイがわたしから抜け出したらしい。

殺人魔女第二号として死刑の宣告を受けた時、ユーレイの彼女がすっと現われたが、笑っただけですぐに消えた。わたしは、ユーレイから見離されたおかげで脱走も出来ず、ついに22才の花盛りでありながら、世の中の憎悪を一身に浴びつつ、この世を去ることになっちゃった。

わたしは、冷たいギロチンの台にあおむけに縛りつけられた。眼上に巨大な断頭刃が光っている。わたしが殺した美女の気持がよくわかる。あと十数秒後には、あの刃がうなりをあげてわたしの頚すじにキスをし、首を胴体から斬り落とすことだろう。

生首は獄門に梟けられ、胴体は逆さに、両脚をひろげた恰好で晒される。もちろん、オール・ヌードで。しかし、若く美しいわたしにとっては、むしろ誇りとするところ。美しいからこそ晒しがいがあるのだ。

この若さで死ぬのはちょっと残念だが、とにかく17人をバラしている。僅か八人のあのユーレイより、はるかに好成績である。

ユーレイ。その時わたしは思い当たった。彼女が消そうとした26人の中に、わたしも入っていたのではないか。わたしに、乗り移ったのも、わたしを、あの世に送る手段ではなかったのか。8+わたし=26!

それにちがいない。だから、わたしが死刑の判決をうけた瞬間、あのユーレイが現われ謎の如き微笑を残し去っていったのだ。あれは、目的を果たして成仏したのではないか。

ちくしょう。うまくやられた。このうらみは誰でもよい、若く美しい女にのりうつり、その女を死刑台に送ってやろう。

ああ、ギロチンの刃が落ちてくる……。

『ズシーン!』

『うらめしやー』

                              

死刑をうけ、獄門に梟けられた絶世の美女の、晒し首、晒し胴の前は、前にもました黒山の人出でしたが、見物人のなかに、彼女におとらぬすばらしい美女がいて、生首にむかって何かつぶやいていました。まさかこの美女、獄門首からこんな声を聞いたのではないでしょうね。

『しっかりね。うらめしやー』





――(おわり)――










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