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釣針に掛かった僥倖
気の毒な娘


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流れは相当に早い。じつとウキを追う目に川底の小石が美しく見える。サッとウキの鮮かな紅色が水中に潜る。竿を握る手にどリビリッとくる快い手応え。水面を波立たせて跳ねる獲物が陽に光る。こんな浅い所で、よく釣れるもんだ″

私はそう思いながら、握った掌の中のヒクヒクする魚の感触を楽しむ。ハスと聞き覚えているこの小魚の鮎に似たスンナリと形よい姿は、どこか、女性を思わせる可憐さである。

『フッフフ……』

再び、渓流に糸を投げ入れたとたん、背後で突然に起こった含み笑いの声に、ギョッとなった。振り返った眼に、丸い篭を小脇にした女の顔がとびこんできた。無造作に束ねた髪に化粧気なしだが、22か3ぐらいに見える若い女だ。私は思わずペコンと会釈していた。



女は、確かに含み笑いした筈だが、その色っぽい笑い声ほど美人ではないが、割合に可愛い目鼻立ちの顔はケロリとして、笑ってはいなかったばかりでなく、私の会釈も無視したように、ジーツと見詰めているだけ。私は少々鼻白んで、竿を上げると、ジロジロと見返してやった。

おかしな女だ。この附近の村の女には違いなかろうが、着ているものがへンだ。どう見ても男用の、それも継ぎハギだらけの野良着である。しかも腰まであるかなしのもので、黒っぽい紐帯をしたすぐ下に裾があり、辛うじて太腿の半ばぐらいまでを覆っているだけなのだ。起ミニ以上の露出度だが、そのムキ出しの太腿が奇妙な生々しさで極めて肉感的なのは若さのセイであろうが、目の毒だ。しかも素足である。ハダシなら河原の小石を踏む音がしなかったのも肯ける。

肉感的なのは太腿だけではなく、ダラシなく拡がっている野良着の衿元から覗くフックラした肌が目の毒加減に於いて優っていた。半分近く顔をのぞかせている両の乳房が、思いもかけなかっただけに余計、私の好き心をくすぐるのであった。

まるでチャンバラ映画に出てくる、山小屋に住む野生娘といった感じに、私は一瞬ポカンとなって見詰めていたが、ふと気付いて、この魅惑を秘めた無礼女を無視することにし横目で眺めながら竿を握りなおした。

いくら時代劇調の肉感的女といえど、私までチョンマゲ雲助になるわけには行かない。心の どこかでは、のどかな川筋には他に人気はないのだから、そうなって襲いかかってやりたいような気持は多分にあったのだけれども……。だいいち、折角とりにくいのを無理して、三年振りにようやくとった貴重な休暇を、ヘンな欲を出して留置場で過ごすなんてことになったら、目もあてられない。

私は頭をもたげっ放しの好き心のヤツを叱りつけ、渓流に俗念を流す雅人となるべく竿を振り糸を投じた。

と……。又もや『フッフフ……』と来た。正体は判った後でも、ゾクッとする色っぽい笑い声だ。チラッと振り向いたが、私はすぐに気をとり直し、風流な雅人を粧った。

ウキが沈んだ。しなやかな獲物が又一尾、私の腰のビク篭に増えた。

私が更に糸を投じた時、今まで斜め後ろから動かなかった女が、ゆっくりした足どりで流れに近づいた。かと思うと、どうだろう、そのまま歩調を変えずに川の中へ踏み込んだのであった。ザブザブと……。

呆気にとられている私など眼中にないように、女は川の中程まで進むと、小脇に抱えていた篭をザブリと水中に置き、中から布の塊りを取り出して、水洗いを始めたのである。流れに拡がったそれは、浴衣でもあるのか、色華やかな花模様がついていた。

私は驚いた。いくらこの村の者とはいえ、釣りを楽しんでいる先住者が居るのに、その釣り場で洗濯を始めるとは……。しかも、私の釣り糸の投げこんである辺りに踏みこんでなのだ。なるほど、川の深さは、女の膝の下あたりまでしかないから、洗い場には丁度、良いのかも知れないが……。私は肚(はら)がたった。竿を上げるなり、

『キミ、無茶すんな!』 と、それでも紳士的に抗議を始めた。

すると、どうだ。女はゆっくりと私を見てニヤッとすると、クルリと私に背を向けた。

とたんに私は息をのんだ。ちょうど田植えでもする恰好で、かがみこんで洗っているのは当然の姿勢だろうが、ミニスタイルの野良着でこちらに尻を向ければどうなるかは分かりきったこと。しかも彼女は、そのミニ野良着の下には何も穿いていなかったのである。

私はドギマギした。そして一瞬後には、雅人の心境はふっとび、締士の粧いが霧消し、ただひたすらに好き心の奴の跳ね上がりを許し、そいつと同調していた。

忽然と現われた川中の美花。

それは正に美花と呼ぶにふさわしい見事にして妖しく、華麗にして魅惑的な情景という例外になかった。

私が気がついたのは、取り落とした竿を踏み折った手応え、いや足応えのためだった。

さすがに、一度、忘我から酔めると、さんさんと降り注ぐ晩夏の太陽に気はずかしく、依然としてこちら向きにうごめいている豊臀を横目して、そそくさと場所を変えた。惜しかった。だが、いたたまれない気持に追い立てられたのも事実であった。

とつおいつ、好き心の奴と渡り合った末、思いきって土手に駈け上がったとたん、反対側から上がってきたオバさんと出会った。

正に危機一髪であった。もうちょっと忘我の時が長びいておれば、きっと、ぽかんと涎をたらしそうな醜態を見られていたに違いなかったのだ。

オバさんも、ハチ合わせしそうな私の出現に驚いたらしいが、一目で見通せる川中の彼女を認めた様子で、急に、いんぎんに声を掛けてきたのである。

『あのコ、ご迷惑かけましたかいのう』 何かわけがありそうだとはすぐ分かった。

『釣り場を占領されちゃいましてねえ』  私は頭を掻いてみせた。

『又、やりおりましたかい。チッ、ほんにもう、しようのない。謝ります、この通り』

 オバさんは深々と頭を下げてくれた。私はシリがコソバイ思いがした。

 だが、私の驚きの連続は、まだ終わりではなかったのである。

『あれ、連れて帰りますんで、迷惑ついでに手え貸して貰えませんかいのう』

オバさんは彼女を遠く睨みながら、着物の懐に手を入れて何かを探りながら、片手で私の腕を摘んだのだ。

『おねげえします』

私は、女と思えない程の力で引っぱられ、再び河原の石を踏んだ。

川の中の彼女は、オバさんに呼ばれるとギョッとしたように立ち上がったが、洗っていた浴衣を絞りもせずに篭に戻すと抱えあげ、いきなり川下に向かって走り出した。

『コレッ。またんか!』

声と共に彼女の前面一メートルばかりのところの水がハジケ上がった。オバさんが、小石を投げこんだのである。続いて一ツ、また一ツ。彼女は立ちすくんだ。そして急にまわれ右をして反対に走り流した。流れに逆らってのことだから速くはなかったが……。

『前に石を投げてッ!』

命令詞のオバさんの声が、私に小石を拾わせた。当てないように投げるのだから、さして楽しくはなかった。

『やめては、いかん!』

立ち止まって、こちらを睨む様にした彼女を中にして、両側一メートルぐらいのところに、ボシャンボシャンと小石が投げ続けられると、しばらくして諦めた態で彼女が、そろそろと河原に上がろうとした。

『掴まえてぇ!』

オバさんはジリジリ間隔を縮めていたのだが、彼女が川から上がるや否や、すごい勢いで跳び掛かったのである。

驚きながらも、手を貸そうとした私は、弾力のある肉体感触を感じたとたんに撥ねとばされて、よろよろっとした。ハッとなった目の前を、露わな見てはならないものがよぎって、太腿が踵動したかと思うと、女二人が、もつれ合ったまま、倒れこんだ。

呆気にとられるとは、この事だったが、凄まじい勢いの格斗ぶりをみせながら、『抑えて!掴まえて!』というオバさんの声に、私はともかく振り廻されている彼女の、ムッチリと肉づいた左腕を握った。とっさのことに、同じく跳ね廻っている太腿にとりつきたいのを耐えたのだ。いや、余りの生々しさに気がとがめたのかも知れなかった。

オバさんは乱暴だった。二人がかりで抑えつけられて抵抗を封じられた彼女にのしかかるようにすると、懐から取り出した荒縄で、縛り出したのだった。

握りしめた彼女の腕の肉感と、躍動する太腿。さらにチラリズムを通り越した露出過多現象に加え、それ一枚のみらしい乱れに乱れた野良着からとび出した肩、胸、乳房、等に目まいすら覚えかけていたところへ、さらにこともあろうに荒縄が掛からんとしているのだから、私はどうしようもなく慄え出した。

オバさんは、そんな私の動揺を知ってか知らずか、自分の捉えた彼女の右手首に縄を巻きつけると、私の掴まえている左手を添えさせて、一つに縛り終えた。

両手首を縛り合わされると、彼女の動きは極端に静まった。だがオバさんは、彼女の首の下に手を挿し入れて引き起こすと、ぐるぐると上半身に、手首縛りの縄尻を巻きつけ、締めたのであった。

大きくハダケた胸元は、それでも掻き合わす様にしてやっていたが、プックリと盛り上がった乳房の辺り、野良着を通してその喰い込み方がよく分かる巻き縛りの荒縄である。同じ縛るなら、後ろ手にしなきゃあ″

とは胸の内だけだが、私は、その若々しい肉体の前手縛りを惜しみながらも、喰い入るように眺めていた。

                             


彼女は狂っているそうであった。何が原因での不幸かということは、言い難そうなので強いては聞かなかったが、月に一、二度は発作が起こり、私にしたような、釣り人の妨害をしたり、県道に坐りこんで、バスやトラックを立ち往生させたりするというのだ。しかも、掴まえに行くと、暴れ廻って容易なことでは引き戻せないそうで、いつの頃からか縛るようになったということだったが、縄がかかると観念するのか、おとなしくなるので助かる、というオバさんの顔付きは情けなそうであった。

『気立ての、ええ娘なんじゃが……』

今にも涙をこばしそうにして、縛られたまま、ぺッタリと畳に坐って、ケロリとしている彼女を、ふびん気に見やるオバさんの心中を思いやり、私は、多少汚れてはいるが、魅力のある肉体の被縛体に惜念を覚えるのとは別に、大いに同情したものであった。

                             


『ええコでしょうが、ポチャッ…として…』

宿で、夕食の給仕についてくれた女中さんは、意味あり気な目付をした。やはり彼女はこの近在では有名入であるらしい。

『気の毒に、あんな調子じゃもん、わるさする男もおるらしゅうてなあ』

そりゃそうだろう″という思いで私は、それはケシカランという態度を粧う。

『したが、あのコ、えろう暴れて、わるさしかけた男のほうがケガしたこともあったそうでしてなあ……』

そうだろナア″という思いが、又もする。

『ありゃあ、もう一年近くも前ですか、流れもんの三人組に掴まったそうで可哀想に手足をくくられてなあ……。山仕事帰りの村のもんが通り合わしたんで、その三人は駐在さんがひっつかまえたちゅうこってしたが……』

私は危うく箸をとり落としそうになった。じ−んと五体に走ったしびれるような衝動。眼の前に、彼女のあの被縛体が生々しさを増し、全裸となり、後手縛りと変わってアリアリと浮かび上がっていた。……昨年の晩夏、T県の山中に休暇を楽しみに行った時のことだった。

彼女がなぜ、あの若さで狂ったのか。なぜあんなに暴れるのか。なぜ縄が掛かると急におとなしくなるのか…?

私はそれを追及したいとは思わない。私の都合よい解し方だけで充分である。彼女には済まないが、自己解釈のほうが、私の夢をふくらませてくれるからだ。

今年も、なんとかして行くつもりである。幸い? にして又、安からぬ竿だが、ペアにする状況に行き会えたら、と、願っている。





――(おわり)――










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