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運送される女


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運送される女

その女の名は、『北原里雨子』。
読み方はリウ子だが発音としてはリュウ子になる。里雨子は、ベッドに括りつけられている。女盛りの輝くように美しい裸身は、後ろ手に縛られている。
縛り方は、いわゆろ本縄。

厳酷な、趣味的な縛り方だ。もともと豊かで佳良な双つの乳房が縄で念入りに縛められて、申し分もないまでに丸く張り出ている。よく締まった細いウエストが、三巻きして固く縛った縄目のせいで余計に細くなっている。

首縄は、呼吸や発声を妨げそうなほどにきつく掛けてあり、情け容赦がない。

顔には、黒い革の防声具が装着してある。あごから眼のすぐ下までを掩う幅の広いもので、鼻の部分に呼吸用の小さな穴が双つあけてある。両足は、縄で大きく開脚され、ベッドへ固縛されている。




 要するに、里雨子の体の中で拘束されていないところは、男に使われる部分だけだった。

 その部分は今、赤い色で汚れている。シーツが暗赤色に染まり、それがじわじわと拡がってゆく。

『う……むう!』

 むなしく呻き悶えるばかりで、止めようがない。

 そんな自分を、里雨子は見ていた。天井と左右の壁は、鏡張りだった。ビデオ装置などもある。

 だが、ここはラブホテルではない。紀伊半島の南端に近い、海辺の別荘である。

 所有者は、尾形信介。そろそろ初老とよばれる年配の男で、職業は美術商だ。

 尾形は、里雨子を放置して、隣室にとじこもり、作業中である。

 鋸で木を切る音。釘を打つ音。

 そして、時おり口笛やハミングが聞こえ、楽しそうである。

(あなた……救けて!)

早く来て! と里雨子は夫に呼びかける。だが、密着した革製品は、あなたのアの字も声にはさせない。ウとムとグを混ぜたような呻きにしかならない。

 ドアがあいて、金槌を手にした尾形が入ってきた。

 すぐに、赤い色に気づいた。

『……あ、何だ、これ』

 一瞬、おどろいたが、ほかに考えようはない。尾形は納得して、嘲笑をうかべた。

『こんなに汚しやがって……仕方のねえ女だ。少しは時と場所を考えて出したらどうだ』

 と無理なことを言った。金槌を逆に持ち替えて、柄の方で、調べなぶり、辱しめた。  

『まあ、いいや。出すだけ、出しちまえ。えんりょするな』

『む……ぐっ……』

 里雨子は身をよじり、精いっぱいに顔をそむけ固く眼をとざす。

 恥ずかしかった。こういう状態を、まともに男に見られてしまったのは、もとより今日が初めてだった。

 異物による凌辱は、執拗につづけられた。

『もう出ないのか? もっと出してみせろ』

 こじって、拡げて、結局は男の動きになってゆく。

(やめて! 許して!)

 なぶるうちに、男は興趣を覚えた。作業はまだ半ばだが、別に先を急ぐことではなかった。

 金槌を床へ捨て、脱衣した。

 里雨子は薄眼をあけて、男のようすを挑めた。すでに、猛々しく張り詰めていた。

『…見ろよ』 尾形は里雨子の顔のすぐ前へ行き、青年のように屹立(きつりつ)している部分を誇示した。

『お前を、欲しがっているぞ』

『うう……う!』

 首をふり、眼で許しを乞う。

『おれなら一向に構わんよ。縄付きで色付きというのも、たまにはいいだろう……』

 尾形は、足の縄を解き始める。

(だめ! かんにんして!)

 そう訴えたいのだが、何しろ全く言葉にはならない。呻き声と、革が軋って微かな音を立てるばかりだ。

 両足の拘束が解かれ、里雨子は一度、双の太腿を合わせたが、すぐに割られていた。

『こら、女。素直に体を開け!』

 男の両手が乳房をつかみ、揉み責めつけた。

『う、ぐっ! むうう!』

 里雨子は、のけぞり、悶える。

 この時期になると、里雨子の乳首は特に敏感となる。ほかには格別に随伴症状はなく、その点は女として恵まれている方だった。

 里雨子は観念して瞼をとざし、下肢の力を抜き、侵犯を受けた。

 尾形は、いささかの復活もせず苛烈だった。

 男には、珍しくておもしろいことなのだろうと、里雨子は思った。ベッドが盛んに音を立てた。

里雨子も熱くなった。呼吸が荒くなり速くなると防声具の双つの小穴が笛の様な音を立てて恥ずかしかった。

 里雨子が念入りに梱包され、荷物として東京へ向けて発送されたのは、次の日の昼だった。

 防声具、後ろ手の革枷、乳枷、幼児のようにオシメをされた上、ゴム製のパンツを装着され、あぐらの形に両足首を縛られた。

 足の縄は大げさに二十回ほども巻かれたが、固縛ではなかった。

 通気孔つきの箱には、天地無用と書いてあった。上下を逆にしてはならないという注意である。

『これは、サービスだ……』 と尾杉は、里雨子の首に木札をつけた。

『特価品』と書いてあり裏には、

『不妊症の淫婦』とある。

里雨子は無排卵性月経の不妊症だった。生理日の周期は、約二十日。人より余計に生理日がくるのに妊娠することはないという、哀しい体だった。尾形は、箱の底に折り畳んだ毛布を敷き、里雨子を入れ、周囲にパッキングを詰めた

『う……うう』

 顔が隠れる前、里雨子は声を上げ、身をよじり、すがるような瞳で男を見上げた。

『なんだ? うれしいのか?』

 尾形は、梱包の作業を進めた。  

 パッキング付きの蓋をして釘を打つ。鉄帯をかけ、釘を打つ。

 さらに、縄を厳重にかける。

 箱の中で里雨子は横になったり逆さにされたりしながら、自分が荷造りされる音を聞いていた。

 約一時間でそれが終わると、尾形は近くの町へ電話をかけ、知り合いの運送屋を呼んだ。

『……美術品です。まあ、大した奴じゃないが、私にとっては大事なものだ。慎重に扱って下さい』

『急ぎますか? 旦那』

『いや。明後日に届くようにしてよ。それまでは留守だから……』 里雨子は、戦慄した。

(……意地悪!)

 二日二晩、呻くこともできないのだ。独り身悶えて拘束感を楽しむこともできない。

 できるのは、ただ無用の血を排出することだけ。オシメを紅く染めることだけである。

 しかし、悪い気分ではない。

 受取人は、無論、尾形自身であり、この遊びは今回で三度目だ。

『子供は要らない。正式の女房になってくれ』と、尾形は言うが、里雨子は断る。遠慮もあるが、何よりも里雨子は『妾』とか、『愛人』という語感が好きなのだ。





――(おわり)――










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