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手に職を


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手に職を


身の話を聞いているうちに、山村公平は腹が立ってきた。怒鳴りつけてやろうか、と思った。だが、この番組では先週も、それをやっている。そう毎週、怒鳴るわけにもいかないので、山村は自制した。

「あのね、奥さん。何の変哲もない退屈な毎日……と、おっしゃいますがね、あんた、そりや、ぜいたくってもんだよ。連日連夜、変哲だらけの夫婦生活なんて、この世にありゃしねえでしょう」

東京下町生まれの山村は、べらんめえ調である。それが受けているので、近頃は意識して捲き舌に喋っている。

「……そうでしょうか」

女は中々の美人だが鈍く、不快な受け答えをして口調も鈍いが問答そのものが、かみ合わない。




 総じて、こういう所へ出てくる女は、身勝手で、無神経で、純感で、わいせつで、早く言えばバカなのだ。利口なら、出てこない。

「夜の生活の方は、どうです?ハッキリと不満なのか、それとも、まあまあ世間並みと思える程度ですか?」

「それは……不満な方だと思いますけど……」

「え?」

「あの……関係は月に5回ぐらいですけど、主人は勃起する時間が短いんです」

ほら、おいでなすった、と思った。近頃の女たちは、ボッキ、スル、ヤル、関孫、挿入、などと平気で言うのだ。

「奥さん。もう少し言葉を選びましょうや。昼間のテレビですぜ」 山村は、軽くたしなめた。

(いったい、何の因果で……)

 身上相談屋になっちまったのかと山村は、心中、嘆いている。

 元来は、新聞記者だった。社の系列局のTV番組に引っばり出され、いつの間にか人生相談の専門家になってしまった。

 ラジオは月―金で、TVはあちこちの局で週に4回。女性週刊誌に月刊誌と、毎日毎日、愚女どもの相手だ。全くの話が、いやになっちまい、ストレスがたまる。

「はい……では、結論!」 番組の終わりに、山村は一気にまくし立てた。

「奥さんの話を聞いてると、ご亭主が気の毒だとしか思えない。従って別れることには大賛成だ。ただし、家裁じゃ駄目。協議離婚しか道はない。もし旦那が同意してくれて別れることができたら、再婿なんざ、しない方がいいね。手に職をつけて、自活して、その上で変哲とかいうものを探し求めるこってす。それなら誰にも迷惑はかからねえからね。つまり、お遊び用の女として生きてゆくことです。美人だから男どもは悦ぶ」

 女は涙ぐみ、唇を咬んだ。

 受け口の下唇の左下に、艶黒子があるのが、記憶に残った。

 それから、約三カ月後――

 山村は思いがけない所で、その女と再会した。

「……お待たせいたしました。只今から、女の競売を開催します。ごらんの通り、若く美しく色っぽい女ばかりを取り揃えてございます。性質は、どれも皆、従順そのもの。たとえどんな辱しめを受けても耐え忍ぶように、十分に仕込んであります」

都内某所にある大野宅の奥座敷だ。蝶ネクタイの男が口上を述べ数珠つなぎの女が引き出される。アラビアの女奴隷。セーラー服の高校生。スチェアーデス。白衣の看護婦。喪服の女。粋な芸者。デパートの店員。江戸時代の女囚。西部のじゃじゃ馬娘。ウェディング・ドレスの花嫁。

 ――と、女たちは仮装して、縄や鎖や戒具で後ろ手に拘束されている。

 客の約半数は、怪物のラバーマスクをかぶって顔を隠しており、山村もその一人だった。

 この会の会員は、役者、作家、議員、プロスポーツの選手、などが多かった。だから仮面が要る。

(あの時の女だ……)

 芸者姿で後手に縛られている美女の顔に、確かな見憶えがあり山付は買うことにした。

 競り合う客がほかに二人いて値が吊り上がったが、結局、山村が勝った。

「はい、25万! ほかにありませんか? では、美人芸者は狼男氏のものです。さあ、どうぞ」

 山村は金を払い、縄尻を受け取って、個室へ連行していった。

 バカげた高値だが、まあ仕方がない。毎月2回、山村がここで縄付き女を買うのは、もとより性向の問題だが、ストレス解消のためでもある。この女なら絶好だ。

(愚女め! 愚女どもめ……)

 思い切り責めてやろうと思う。

 銀杏返しのカツラを取り、全裸にしてキリキリと縛り上げた。

「お客さん……い、痛い!」

「うるせえ! 伊達に大金払ったんじゃねえぞ! 神妙にしろ!」  

 苛烈に犯し、女を嘆かせた。

 翌朝――。

 女は口を使って、眠っている客のマスクをはいだ。

「ああ、やっばり……山村先生」女は十指を屈伸させ、呟いた。

「私……手に職をつけました」





――(おわり)――










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