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美人魔女の最期
うらめしやッタラうらめしや


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うらめしやッタラうらめしや


『うらめしやー』

無気味な声に目をさますと枕もとに、まる裸の美しい女性が立っていた。

ハッとたしが直ぐ私の直感が働いた。

『あらユーレイさん。こんばんわ』

私が驚かないのでユーレイの方で驚いたらしい。

『こ、こんば…いや、うらめしやー』

『あなたは殺人魔女でしょう。わたしは、よく知ってるんだから』




最近話題の、若き美女を次々と誘拐し、無惨な死体としてしまう殺人魔女。犯人は絶世の美女で、もちろん死刑をうけ、晒し首、晒し胴となるが、翌日には次の魔女が出現、同じような犯行がくりかえされ、このため自称美女たちの間で大恐慌がおこっている。

わたしは察している。若い女性共通の、自分より美しいものに対する反感が、殺人にまで発展したのだ。死刑により生命を失えば、ユーレイとなってほかの美女にのりうつり、己れの果し得なかった夢をつづけ、あわせてその美女をも死刑台に送るのだと(五月号、うらめしやー)

『なんだか調子が、くるっちゃったわ。うらめしやー』

『だめよ、いくらうらめしがっても……。わたしは、あんたの先輩だもの』

何をかくそう、わたしは絞首刑をうけ、地獄におもむき、エンマ大王の侍女になりながら、あまり美しかったため王妃にヤかれ、絞め生かされた女だ。こんな後輩におどろくわけはない(一月号、冥府よりの帰還)

『でもそんな話、きかなかったわ』

ユーレイは、わたしの自己紹介に、信じられないといった顔付きだ。

『それはね、死の確認後、5分以上も吊るしたのにイキをふきかえしたので、所長以下、みんながオロオロしちゃって急いでもう一度絞首台に追いあげたのに、ロープが切れたりゆるんだりで、わたしは死ねなかったのよ。ギロチンにかければ斧が途中でとまる。電気イスに縛れば停電。ガスは品切れ。銃殺柱に立たせても命中せず、とうとう、わたしを釈放したってわけよ。かわりに、どこからか若い女をつかまえてきて、絞首台に吊るして員数をあわし、外部には、もらさないようにしたらしいのよ』

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『じゃあ、あなたは不死身なのね。死刑になっても死ぬことがないのね』

ユーレイがあまりしよげているので、少し気の毒になり慰めてあげる意味で彼女の話を聞いてあげる事にした。

『私は、こんなに若く美しいでしょう。いままで殺されなかったのが不思議よ。でも、いつか、きっと殺られる。なぶり殺しでね。それなら殺すほうにまわろうと思ったの。死刑は斬首ですむし、ユメも満足できるもの』

『そう、たしかにその通り。賢明だわ』

『それで、友達をノバし、おっぱいをそぎ、おへソをえぐり、ひと晩、苦しめてから首を斬りとってやった。でも、もうひとりの友達に密告されて、簡単に捕ってギロチンにかけられたのよ。うらめしやー』

『それでユーレイになったのね。すると、あんたは世襲でなく、新しいユーレイね』

この調子では、まだまだ多くのユーレイが出現するに違いない。ユーレイ世襲者にとって殺人とは、最高のビジネス。しかも、こんな面白いことはほかにない。そのため死刑という代償を払うわけだが……。

私は死刑を恐れる必要がないから、この仕事の最適任者。いったい今まで何をしてたのか勿体ない話だ。

 わたしは決心して、ユーレイに云い聞かせて帰らせた。

それからのわたしの働きは、われながらめざましかった。かのユーレイも、ほかの美女にのりうつて活躍し始めたようだった。また思った通り、多くの魔女、ユーレイが続出したようで、死刑をうけたもの30人、犠牲者は400人を越え、誰が誰をやったのかもわからぬ有様。殺し方も種々雑多。どれもわたしには興味あるものばかりだが、例をひとつだけ、あげてみよう。

滑車を通してロープをたらし、両端に美女をひとりずつ後手に吊るすと、体重の重いほうが先ずさがる。その足もとから火をたけば

『熱つ! アツイ! あついわあー』

悲鳴と共に身をくねらすが火からのがれ得ずジリジリ焼かれ、焼けた分だけ軽くなり、もう一人の方がさがる。

『アチチ、たすけて! アチチ……』

悲鳴って、どうしてこうおんなじなんだろう。こうしてふたりは、あがったり、さがったりしながら、膝、腰、腹と焦げてゆき、とうとう、くたばった。クビだけは焼かずに、かんべんしてやった。

ところで、わたしがパトロールの婦警にふみこまれたのは、13人目の美女を絞殺し、血を浴びぬようオールヌードになって、四肢をバラバラにしているところだった。

熱心だったので侵入者に気付かず最後にノコギリを細首にあて、ゴリゴリひいているところで声をかけられた。

まだ新米らしい。拳銃を両手で握り前に突き出すも、遺憾ながら銃口がふるえて私は、せせら笑ってやった。

『アンタ。この状況だから、射っても正当行為よ。でも、そんな恰好でだいじようぶ?』

婦警は、緊張に蒼ざめながら、指を引金にかける。本気で射つつもりだ。わたしが不死身のオンナとも知らずに。まだ、はたち位のかわいい顔の婦警さん。お気の毒に、この近距離から射ってあたらなかったら、さぞおどろくだろう。それとも弾丸がでなくてあわてるか、そこをねらって拳銃を奪いとり、逆に射ちとめてやろう。14人目にカウントする価値はありそうだ。

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婦警は右膝をつき、最も確実な膝射ちの構え。わたしは、わざと前にでた。銃口が、おヘソにふれる。更に一歩、すすむ。柔らかい皮膚に銃口がめりこみ、冷たくていい気持。

『さあ射ってごらん。射って下腹の皮膚がぱっと裂け、真赤な血汐がピユーと流れなかったら、おなぐさみよ』

わたしはタンカを、きった。

婦警は引金をひいた。

にぶい銃声が、ひびいた。

死を宣告する、すさまじい激痛が、わたしの身体を貫ぬいた。

わたしは、弾丸の命中した箇所をみた。

下腹の皮膚が、ぱっと裂け、真赤な血汐がほとばしり、でていた。

こんなハズない…私は死なないハズだ…それとも前の様に、いったん死んでまた地獄で射ち生かされるのか?

耐えがたい苦痛に、わたしはドオとたおれた。婦警は、はっとした表情で額の汗をぬぐいつつ第二弾をわたしの心臓に射ちこんだ。

                             


この道は、いつかきた道。地獄への道。

あたりは、まっくらだが、そろそろ前方に灯が見え、赤オニ、青オニが門番をしているはずだ。

途中、手さぐりでウロウロしていた、絞首刑になったという美女を追いぬき、ようやく地獄への入口についた。

『また一匹、きゃがった』

おや、この前の“美しいお嬢さんいらっしゃい”と、愛想よくむかえてくれたのに、酷くサービスが低下したものだ。

『私よホラ!大王の侍女になりながら王妃のジェラシーから、あなたたちに締め生かされた私、忘れたの?』

鬼たちは、やっと思いだしてくれた。

『あぁ〜あの時の女がお前か。あれから若くて美しい女が続々やって来て、王妃はヒステリーが、こうじて入院、大王は選り取りミドリのご機嫌でいるよ。お陰様で俺たちは女たちの世話に追われて、たまったもんじゃないよ〜』

私は笑いだした。これで死んだ訳が分った。きっと地獄で大王が呼んだのだ。すると、もう前の様に俗世に送り帰される事はないだろう…今度こそ侍女になれる。ようし、あわよくば入院中の王妃に取って代わり…と思った。

だが、現実はキビシイ! わたしの黙算はみごとに外れた。あまりにも若く美しい女たちがあふれすざたため、わたしは面接だけでかるく落とされ、なんと下女にされてしまったのだった。


毎日毎日、針の山の針磨き、長さ50p、巾1pの太いものが、10万本。1本でも輝きの悪いものがあれば、それは、私の身体の、おヘソや乳首など、鋭敏な所を選んで、突き刺さるのだ。その痛いことったら!

いつまでこの責苦が続くのか。勿論、死ぬまでだ。???

『あぁ〜うらめしやー』





――(おわり)――










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